659.割り箸の包み紙
 飲食店や居酒屋などで出されるお箸は、お店の名前の包み紙に覆われています。割り箸を使用する際にその役目を終えることになります。ところで会話の中での約束事や良い話があった場合に必ず私はメモを取ります。特に居酒屋での会話の場合は、その場でメモを取っておかないと明日になれば忘れてしまうことになります。
ですから大切なお話はメモを取ることにしています。普段は手帳に書き込むのですが、飲食しながらメモを書く場合は、割り箸の包み紙を裏返して印刷されていない面に書くことが多いのです。書き込んだメモは財布に入れておき、翌日見直すことにしています。そうすると前日に何を約束していたのかを忘れていることが結構あります。
 大切な話をした時は、直ぐにその辺りにある紙を利用してメモを取るようにしなければならないと思っています。

 平成20年のある秋の日、Iさんと居酒屋で話をしていた時のことです。年末に忘年会をすることを約束し、その約束の日付を割り箸の包み紙に私が書き込んで、Iさんに渡したのです。そして数か月後の今年の年末。約束通りに一昨日、忘年会を行いました。
 すっかり割れ箸の包み紙のメモのことを忘れていたのですが、Iさんはしっかりと覚えてくれていました。「今日の日を忘れずにいたのは、割り箸に書いたメモのお陰ですよ」と話してくれました。そして「あの割り箸のメモは大切に保存しています。あなたが書いてくれたメモですから、将来もっと大きくなると信じて大切にしまっているのです」と話してくれました。これは嬉しい言葉でした。
 割り箸の包み紙が単なる紙ではなくて、信頼の言葉を記すことによって生命が吹き込まれることがあるのです。そうすると、それは捨て去られる包み紙ではなくて気持ちを伝えるメッセージカードとなります。気持のこもったものは例え割り箸のメモでも残しておきたいものになることがあるのです。人の手元に残る約束の言葉の一枚の紙。今と過ぎ去った時を思い出させてくれます。

 Iさんの元に割り箸に書いた私のメモがある限り、そり時の思い出と共に気持ちはつながったままでいられます。他人にとったらゴミのような割り箸の包み紙ですが、二人にとったら大切なものに変化しているのです。それはお金では量れない価値あるモノになっています。

相手に伝えた大切な言葉は相手の心に残ります。相手と交わした約束もそれが果たされるまで心に引っ掛かっています。そして言葉や約束の印であるメモの文字は、それがきれいな用紙でなくても、相手のことを大切に思っていたら保存しておくことがあります。
 それにしても、Iさんが大切に保存してくれると分かっていたら、もっと丁寧な字で日付を書いたのにと思っています。これからは人に渡すメモに書く文字は極力丁寧に書きたいと思った次第です。きれいな言葉を使って、丁寧な文字を書きたいものです。

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