友人のTさんのことです。残念なことに左目が塞がってしまいました。左目の奥に潜んでいる癌細胞がこれ以上悪さをしないように祈るばかりです。目の奥に病巣があることから頭痛が続き、考える力と机に気力が低下していることが気掛かりです。本人も気力だけは維持し続ける強い思いを持っていますが、それでもそれを上回るような無気力感に襲われています。恐ろしい癌細胞の威力です。
一人になると座っている気力も遠くなるので、なるべく誰かと話をしていたいところですが、家計を維持するために奥さんも仕事に出掛けているなど、ここはどうしても一人で戦わなければなりません。病気との戦いは孤独で厳しいものであることを痛感しています。元気な時は、病気になんかは負けないと思っていますが、何か困難があれば気力を維持することは決して易しくはないのです。
「絶対に、仕事に復帰したい。会社を辞したのが2年前、1年前に発病して今日の状態なので、このままでは何のために独立したか分からない。必ず仕事に戻りたい」と強い気持ちで話してくれました。
その通りです。何のために夢の実現に人生を掛けたのか、その意味からしても、ここで困難に打ち勝つことです。「1年後はまた一緒に仕事をしたいと思っているので、それは実現できると思っているから」と答えましたが、1年後には事務所で、元気な姿で仕事をしている姿が浮かびます。勿論、横には元気な奥さんと、現在、名古屋大学大学院一年生の長男が戻っているのです。幸せな家庭を末永く継続させるためにも、ここは暫く仕事を休んで、病気との闘いに打ち勝つことに全力を尽くしてほしいと願っています。
Tさんは同期入社で、最初の職場で一緒に仕事をした仲間です。随分と時は流れましたが、社会に埋没することなく、お互いに志を持ち続けていることは何よりも嬉しいことです。
人生の志の灯は決して消してはなりません。これからも熱く、大きく、強くなお一層燃え立たせるためにも、直面している困難は乗り越えなければなりません。資格を元に独立して事務所まで設立しているのです。まだ志に応じた仕事を達成していませんから、やるべきことは山積みです。志を実現する最初の段階で神様は、何と厳しい試練を与えているのでしょうか。Tさんなら打ち勝てると信じて神様は試練を与えているのだと思いますから、
その期待に応えて大きな仕事を実現させたいものです。
いま改めて思うことがあります。例えどんな試練が訪れようとも、生きて夢と希望を持ち続けられることは素晴らしいことです。どんなことがあったとしても、やはり人生は素晴らしいのです。夢と希望の詰まった明日は誰の下にもやってきます。
そしてTさんは、自分のことがあるのに私のことを心配してくれて「人間ドッグは行った?」と会う度に尋ねてくれます。私は「健康なので、まだ行っていないのです」と答え続けています。
平成19年にお亡くなりになったYさんと最後交わした言葉は、Yさんの「○○さんのことをよろしく頼む」に対して、私は「分かりました」でした。
Tさんのお見舞いに行ったのに、Tさんは私に対して「人間ドッグには行かないと駄目だよ」の言葉を掛けてくれました。自分のことが一番大切なはずなのに、何というきれいな心を持っているのでしょうか。
優れた人に共通していることがあります。自分が困難に直面していても、相手のことを思う気持ちを持っていることです。人は誰でもいつか地上から消えてなくなります。しかし、この気持ちを受け取った人、そしてこの世界は、人を思いやるというきれいな気持ちの持ち主のことを、決して忘れることはありません。
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