358.決断の年
 平成18年、決断の年を迎えているのが友人のTさんです。彼とはもう20年以上のつきあいをしていますが、今回、心から祝福すべき決断をしています。5年ほど前から、仕事をしながら、そして時には単身赴任をしながら土地家屋調査士の資格勉強を行っていたのですが、諦めることなく勉強を継続し、平成17年の試験に合格したのです。単身赴任はどうしても生活が不規則になりますが、強い意思で夜間に勉強を続けていました。

 大阪市内にある資格試験予備校にも土日を利用して通学するなど、実力を養成していました。仕事をしながら、休日である土日に学校に通うことは容易なことではありません。かつて私も3年間、資格試験勉強のため毎週土曜と日曜に大阪市内の学校に通った時期がありますが体力的にも精神的にも、そして時間を確保するのも本当に大変でした。一回休講すると継続性のあるものだと次の授業が分からなくなりますし、単発の講義であれば二度と聴くことが出来なくなりますから補習が困難なのです。

 今ではDVDやインターネットを活用した勉強方法がありますが、デジタル世代に育っていない人間にとっては、知識を頭に入れるのは生講義に優るものはありません。何よりもテキストだけでは感じ取れない行間の意味が分かるのも生講義です。またDVDのように再生出来ませんから真剣勝負となります。それだけに集中力と継続する力が必要なのでやり遂げるだけでも大変なことなのです。

 さてTさんは念願の土地家屋調査士の資格を習得したのですが、この資格をどう活用するのか悩んでいました。それはこの資格は独立系の資格でもあり、現在の会社業務で活かすことが難しいからです。何よりも、独立して自分の人生を歩きたいと思う気持ちがあり、安定した生活と決別する決断を下したのです。
 決断に至る苦悩は想像出来るものではありません。果たして独立して生活出来るのだろうか。仕事はあるのだろうか。資格と実務は違いますから一人でやっていけるのだろうか。限りなく発生する不安に朝まで眠れない日々もあり、長考した末に独立する意思を固めたのです。時に44歳の決断です。
 安定と不安感を比較すると誰でも安定を志向してしまいます。ただやっかいなことに、本当にやりたいことは安定の先ではなく不安感の向こう側にあるのです。不安感という壁を乗り越えないと人生の果実は得られないものなのです。目指すべき果実を獲得するのは更に先のことになりますが、少なくとも最初の一歩を踏み出したことで、それに近づくことが出来ます。

 まだまだあります。現在ある大学の通信教育過程で学んでいる学生でもあり、夏休みには東京までスクーリングに通っているのです。学ぶ意欲と姿勢は見習うべきことが一杯です。高い志と強い意思があれば、思ったことは何でもチャレンジ出来ることを示してくれるものです。しっかりと人生のゴールを見据えると困難も突破出来ます。
 ただ不安感に打ち勝った末の決断ですが、決して不安定なだけではありません。44歳ですから、仮に会社生活を過ごすにしても定年の60歳まで後16年です。最近は終身雇用制が崩れていますから、職位によっては55歳までに会社の本体から離れることを余儀なくされる場合もある訳です。そうすると就職した会社でいられるのは後11年と言うことになります。

何かにチャレンジするのに遅すぎることはありませんが、55歳の出発よりも44歳で出発
する方が気力も体力もありますし、やりたいことが出来る時間をたっぷり取ることが出来ます。何よりも開業する土地家屋調査士に定年はありませんから、生涯現役でいられるのですから、もしかすると安定に向かっているのかも知れません。世の中に絶対的な安定はありませんから、困難な決断を下した人の方が苦しくても充実した人生を過ごせるのではないでしょうか。

 時には逃げ出したいことも弱音を吐きたいこともありますが、身近なところで大きな勇気に接していると再び立ち向かう勇気が湧き出てきます。人間とは不思議なもので、やる気のある人と接しているとやる気になりますし、人の心の火を消すような人と接していると意気消沈するものです。短い人生ですから、挫けながらでも燃えるような心を持って生きたいものです。

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