294.トリノから
 平成18年2月11日に開会したばかりとの感覚があったトリノオリンピックが閉会を迎えました。今回の大会はリアルタイムで映像を観ることはありませんでしたが、ニュースなどで報道された内容には感激させられるものが多くありました。
 確実なのは、どの選手も出場するまでの過程には大変な努力があったと言うことです。
 多くの選手は栄光と挫折を繰り返して、その中には競技にも参加できない程の怪我で絶望的な時期もあったのに、底から這い上がってきた選手もいます。簡単にオリンピックの舞台に立っている選手はいないのではないでしょうか。いずれの選手も困難を乗り越えて夢を実現させています。

 かつては出場することに意味があると言われていましたが、最近はメダルを獲らなくては出場するだけでは意味がないと聞くことがあります。優勝劣敗の空気が横たわる時代背景から来るものでしょうが、選手の競技姿を見ているとそんなことは言える訳がありません。夢を実現させた選手の演技は、観るものを感動させる力を持っています。自らの夢を叶えた結果を観ることで私達は夢を分け与えてもらっています。
 ウインタースポーツの採点方法は余り知らないので詳しく分かりませんが、予選と本選の二回競技を行う種目、本選二回の合計を競う種目などがありますが、時間にしてわずか数分で終了する種目もあります。オリンピックを目指して4年間の時を賭け、夢の結果が出るのに要する時間は数分間。メダルを獲得した選手も届かなかった選手も、競技にかける人生の中でトリノでの競技時間はそれだけに過ぎません。時間の中身は間違いなく普段の生活と違い濃厚でしょうから、選手が感じる時間と聴衆が感じる時間は全く違いますが、それにしても燃える時間は余りにも少なく感じます。そのオリンピック出場でのわずか数分ために生活の大半を練習に費やして来た過程が、演技に表れ私達を感動させるのです。
 スポーツにおいて多くの人に影響を与えられる舞台がオリンピックですから、結果が伴えば最高ですがそうでなくても出場するだけで十分意味があるものです。

 トリノでは女子フィギュアスケートが注目を集めました。金メダルを獲得した荒川静香選手の姿は言葉にならない勇気を与えてくれるものでした。長野オリンピックから8年間、努力を重ね続けた結果掴んだ栄光だからこそ眩しく光り輝くように感じます。
 対して15位に終わった安藤美姫選手。小さい頃からの歩みと境遇を報道で知ると、次のオリンピックを目指して復活して欲しいと応援したくなります。父親を亡くした8歳の時から夢見たオリンピック日本代表。本人は「わずか10年で達成した」と言いますが、10年も気持ちを切らさないで練習を続けてきたこと自体凄い才能です。
 いまの境遇も決して順調ではありません。4年後には女子フィギュアスケート日本のエースになるべきなのですが、4年後に向けてのライバルには浅田真央選手がいます。最強の上の世代に追いつき追い越すことと同時に、最強を継ごうとしている次の世代に打ち勝つことが次を目指すための大きな壁です。18歳にして厳しい状況に取り囲まれています。
 天才達に挟まれているのは、安藤選手が困難を越えられる素質があるから天が与えた試練のような気がします。「Believe myself.信じることから全てが始まる(絢香I believeの一節)」4年後の2010年、再び夢の舞台に立って欲しいものです。

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