286.ものを大切に
 最近、ものを大切にする気持ちが失われています。大人がものを大切にしないので子どもにも影響を与え、子どもも、ものを大切にしなくなっています。

 こんな出来事がありました。子どもが欲しがって200円を出して風船で作ってもらったスヌーピーのバルーンアート。しばらくは大切にしていたのですが子どもの関心は直ぐに次に移り、カバンに入れた状態になっていました。昼に買ったばかりのスヌーピーのバルーンアートが、夕方には落としたのかカバンから紛失してしまいました。結局見つからなかったのですが、その時に子どもの母親は「なくなったら仕方ない」と簡単に思っていました。この言葉を聞いた子どもはどう感じるのでしょうか。子どもはものをなくしても「もったいない」とか「大切にしていたのにどうしよう」とは感じないで「また買ってもらったらいいや」と思ってしまいます。
 母親にとってバルーンアートはわずか200円だから、失っても何とも思わないことから発した言葉です。200円のものにそれ程の価値はないと判断を下したことが、言葉を通じて子どもに伝わります。

 では10万円のものをなくした大人は、なくしたものは仕方ないと思うのでしょうか。そう思わないで必死になくしたと思われる場所や通ってきた道中を捜すことになります。ものの価値を経済的価値で判断していることが対応で分かります。
 子どももやがてものの価値はお金により決定されると考えるようになります。安価なものは価値がないため失っても構わないと思うのは誤りです。

 200円のものでも、風船の材料を作ってくれた人がいます。子どもが欲しがったので、例え商売だとしても目の前で作ってくれた人がいます。バルーンアートの技術を商売にしている人は、その技術を身につけるまでに相当の練習時間を重ねている筈です。200円の商品であっても、子どもに喜んでもらうために積み重ねた練習の時間が、簡単にバルーンアートを作ってしまう背景にあります。

 最終的な形に仕上がる価値は200円だとしても、そこに行き着くまでにはたくさんの人と時間が関わっています。何よりバルーンアートを作る過程を不思議そう眺め、わくわくしながら楽しんでいる子どもにとっては価値あるものです。

 好きなものを選ぶ瞬間。不思議なこと。わくわくすること。ドキドキしながら待つ時間。
 お金では買えない貴重な感情です。子どもが感じる貴重な感情の結果得られた作品に価値がないと大人が思わせてしまうことは、子どものそのような感情を否定することになります。大人にとってはそのような感情を感じることが少なっているか、日常生活の中で失われている感情ですから、子どもか感じている気持ちに対して何も感じなくなっています。
 でもわくわくしたりドキドキしたりすることはとても大切なことです。毎日わくわくしたら楽しいですし、毎日ドキドキしたら素敵な一日になります。そんなことを感じる日があれば印象に残る一日になりますし、今日は良かったと感じる一日になる筈です。

 子どもが感じる感覚を大人も持っていると毎日が楽しくなります。大人は子どもが持っている感情を、お金のものさしで判断してはいけません。
 ものを大切にすること、ものをお金だけで判断しないことを大人は子どもに教えるべきです。そうするために、大人も子どもの時に感じた気持ちを取り戻すことが必要ですが、これは簡単です。子どもの時に大切にしていたものを思い出してみる、子どもの時、欲しかったものをやっと買ってもらった時のことを思い返してみる。あの頃の気持ちが蘇り、お金がなくても幸せに感じた日々を感じることが出来ます。
 これだけでも少し価値観が変化しました。

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