257.品質
 何気なく食している素材に卵があります。(ここで取り上げる卵は鶏卵を差します)。ケーキやシュークリームは卵を使用しているため、卵の品質が美味しい製品を作るための鍵を握っています。
 敷地内で自由に育てられている鶏が産む卵と、囲いの中で育成され運動量が少ない鶏の卵を比較すると栄養価が異なります。自然の中で育てられている鶏は1日1個の卵を産みますが、管理されている鶏は1日約3個の卵を産んでいます。管理とは卵を商品と見做しているため、需要に答えるため大量生産を図っているのです。卵を管理するためには鶏を管理する必要があります。飼育現場の一日を見たことはありませんが、お話した関係者の話では、照明を調整し一日の内に三回程度、朝と夜の環境を作り出しているそうです。そのため鶏の産卵は1日3回となるのです。
 卵を安価に購入出来るのは卵を商品として開発している人達がいるからです。

 それに対して自然環境の中で育てられている鶏は1日1個の卵を産むだけですから、商品としての価値は高くなります。金銭的に単純化すると、1日1個だけ供給される卵は、1日3個供給される卵の三倍の価値を持つことになります。
 両者の卵を比較すると栄養価も当然違っています。親鳥から供給される一日栄養素は決まっているため、1日1個産卵される卵には3倍の栄養が詰まっているとも考えられます。(ただし餌の品質により異なります)
 三倍の栄養価値がある卵は三倍の価格になっても不思議ではありません。私達が食べる卵はどちらでも良いと思いますが、ケーキ製造工場ではそうなりません。ケーキの味は技術力よりも素材が一番影響を与えるためです。
 本当に良い商品を作るためには素材を選ぶ必要があります。ところが素材に拘りすぎるとケーキ価格が高くなりますから、一般的な商品としての販売方法は難しくなります。

 一方、価格を下げるために素材を落とすと味も落ちるのでお客さんの満足度は低くなります。一般的には三回期待を裏切られるとその商品は買ってもらえなくなるようです。どの辺りでバランスを取って販売するのかを決定するのが経営者の役割です。販売見込みと売れ筋の価格を勘案して素材を決定し調和させていきます。
 職人と経営者の両者の視点を持って店舗運営させていかないと勝ち残っていけませんから、商品開発と素材集めが重点となります。折角良い商品開発を行っても素材の供給が単発では継続して良い品質の商品をお客さんに提供出来ないため、生産者との交渉力も求められます。
 ひとつのものを完成させ継続して供給していくための能力は多角的なものが求められます。何気なく食べているケーキやシュークリームには、製造者の夢と研究の成果が詰め込まれています。

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