255.経験と不安感
 簡単なことでも経験しないと分からないことがあります。今ではセルフのガソリンスタンドは珍しくありませんが、登場した時にはガソリン代は安くても素人がガソリンを扱うことへの不安感がありました。そのため少し高くても従来型のところへ行く方が多かったのです。
 ところがガソリン価格が上昇を続けているため、周囲にもセルフのところへ行く人が増加しています。初めて行くと段取りがわからないので店員さんに聞きながら自分で給油します。一通り説明を聞いてやってみると不安感も危険もなく給油作業を終了出来ます。
 給油作業をやったことがない段階では、ガソリンが満タンになったらどうして止めるのか。溢れ出ないのだろうか。レギュラーや軽油の種類を間違わないのか。ガソリンスタンドには係員が誰もいないのだから給油方法が分からなくなったら誰に聞いたら良いのか。などの不安感を抱えているため及び腰になります。
 ところが実際にやってみることで、不安に思っていた作業でも手順を知ると簡単なことが分かります。ガソリンは満タンになると自動的に給油が止まるので溢れ出ないこと。ガソリンの種類は大きく表示されているため間違う恐れが少ないこと。無人ではなく営業時間内では店員が常駐していること、は体験することで分かります。

 尊敬するある経営者が事業を起こしたのは53歳の時です。小さな会社を起業してから30年余り、初期投資は回収し利益を生み出すなど事業を成功に導いています。現在、企業にもよりますが、50歳を超えると役職を外れるばかりか片道の出向を余儀なくされることも珍しくありません。多くの人は引退が頭にちらつき、引退後の人生を考えるその年齢になって新規事業に取り掛かる若さは常人離れしているように感じます。しかしお会いすると私達と同じであることが分かります。
 違う点を挙げるとすれば、起業した時の意欲を継続していること、物事は一歩一歩の積み重ねがモノを言い、一足飛びに成り立たないことを知っていることです。自分で責任を取る位置にいると、後についていく人よりも経験することが増えます。他者との接点の拡大、銀行との折衝、事業計画、法律との関わりなど、従業員の時には体験しなかったことが襲ってきます。その不安感に立ち向かえることが優れているのです。
 
 やってみると簡単なことでも未体験の内は不安感が支配しているため、積極的に新しいしくみに取り組もうとしないものです。でも人は必要に迫られると取り組もうとします。その繰り返しが経験を積むということで、経験の数が多いほど出来る分野が多くなりますし、自分の周囲から未体験のものが少なくなると不安感が少なくなります。
 経験を積むことは不安感を消し去ることだといえます。不安感が少なくなると活動領域が拡大していきます。つまり日々の活動は目指すべき分野で経験を積み、心に抱えた不安感を消すことで思いを実現していくことにあります。各分野で活躍している人達は自分の心の中に潜んでいる不安感との戦いに打ち勝った人の集まりですから、活き活きしているのです。

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