「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」これは夏目漱石の「草枕」の始まり部分です。世に出るために挑んでも、悪は滅びることがないのが人間社会であることから、情のない世界、非人情の世界に浸りたい思いを表現した名文です。
明治時代でも平成の世の中でも人間社会を形成しているものは全く同じです。一番早く物事を実現させるためには、効率的、合理的な考えだけでは達成出来ないことを知っておくべきです。人間社会では情、特に感情が入り込みます。
俗っぽい表現ですが、人が儲けていると腹が立つことから周囲の人からの中傷を受け、行動を妨害されることがあります。挨拶に来ないと言って横を向かれ、物事が前に進まなくなった経験をしている方もいる筈です。
他人だけが儲けるのは面白くない、有力者である自分が無視されるのは面白くないと思われるのは世の常です。特に実績のない若い人達(若くなくても新しいことに取り組む人は誰でも体験することですが)が、今までにない企画力と素早い行動力を見せつけると、周囲から批判にさらされることになります。
批判以上の評判が後押ししてくれると次の段階に成長していくのですが、批判の声は評判よりも大きいのが一般的です。声の大きいところから批判が出始めると、行動している人に同調していると自らも批判の対象になることを恐れて身を引く場合があります。これは集団主義のDNAを持つ日本人にとっては当然の帰結ですから、このことを取り上げることは適切ではありません。
第一段階をクリアした後は、批判と周囲が離れる現象を乗り越えて批判を封じ込める行動が求められます。第一段階は自分を信じて優れた企画と素早い行動をとることで上っていけます。
その次の第二段階で必要なものは周囲との協調です。情を大切にすることでこの段階を登りきらなければなりません。「お陰さまで」の言葉が必要な時期です。
人は支え支えられていることを知ると「お陰さまで」の言葉が出てきます。何事も一人で行っているように思い込んでいますが、この世の出来事で単独で出来ているものは何ひとつとして存在していません。直進している裏で、つまずかないように根回しをしてくれている人が絶対に存在しています。目立たないのですが、周囲との協調を図ってくれている人を大切にすることでこの段階をクリア出来ます。
ここでは人間の幅を少しだけ拡げることが求められます。周囲に皆さんに感謝する気持ち、年上の方を敬う気持ち、弱い立場の人を大切にする気持ちを持つことでこの壁を突破出来ます。
企画力、行動力、情の力を持ち合わせることで、社会に通用する人材になっていくこが出来ます。少し進展の速度が減速したとしても、周囲と協調し同調してくれる人を増やすことが次の舞台に上るために避けて通れない道です。
批判の声が上がれば真っ向から力で押さえ込むのではなく、評判の声を高められるよう情の力を発揮し批判を消し去ることが最善の策です。
|