253.レオナルド
     ・ダ・ヴィンチ
 天才レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)が記したノート「レスター手稿」が公開されています。レスター手稿は一年に一度、しかも一カ国だけに公開される貴重な第一級の資料です。日本では初めての公開で、今後も実現するかしないか分からないような企画です。
 レスター手稿とは、全36紙葉72ページで構成されているレオナルドが晩年に記したノートです。しかもレオナルドが53歳から数年間に記したもので、彼の生きた中で得た知識を後世に残すために記された人類の遺産です。月の満ち欠けや天体運動などを扱う天体学、流水を扱う流体力学、地殻変動と地球の内部構造などの地球物理学的な考え方が書き込まれています。
 このノートの所有者は、イギリスの貴族レスター卿からアメリカの石油王ハマー氏へと移り、現在はマイクロソフト社のビル・ゲイツ会長が所有していることからも貴重なものであることが伺い知れます。

 さて500年以上の前の紙に記されたノートであるため痛みの進行を防ぐため、展示会場は暗室で、時間を決めて微かに照明を施しています。本物のレスター手稿は一枚一枚ケースに収められ、500年の時を超えてレオナルド自身で書かれた文字が浮かんできます。凄いのはノート一杯に書かれた圧倒的な文字の洪水です。天才であってもアイデアは書き込むことで考え方を整理していること、書くことでアイデアの連鎖を行っていること、書いておくことで何時までも覚えられることが分かります。
 良い考えが思い浮かんだらノートに書いておくことが忘れることを防ぐ秘訣です。人類史上最高の天才でも考えをノートに記しているのですから、アイデアを実現するためには如何に書くことが大切なのかが分かります。

 これらの積み重ねた知識は53歳になってから記しているものですから、向上心とは年齢は全く関係なく、書くという誰にでも、そして今から直ぐに取り掛かることが出来る行為から発するものです。どれだけ良いことを思いついたとしても、書いて残さないと形を残すことはなく消え去るのみです。人類史上においては、天文学的数字の優れたアイデアが世に形を残すことなく消え去っているのは間違いがありません。

 公式プログラムの記述には「レオナルドが今なお我々に訴えかけてくるのは、真理を追い求める信念と情熱、グローバルな英知の意義、そして、芸術にも通じる人間の創造力の無限の可能性です」とあります。本人の自書は、本物だけが伝えてくれる圧倒的な迫力があり、確かに人間には無限の可能性があることを感じさせてくれます。
 天才レオナルド・ダ・ヴィンチと500年の時を超えて語り合うことが出来たのは、この貴重な人類の財産を守り続けてくれている歴史上の人物、そしてビル・ゲイツ氏がいるからです。貴重なレスター手稿を公開してくれているのは、私達にもっと先人達の行いを見習い進歩して欲しいとの願いがあるように気がします。そして進歩するのは難しいものではなく、誰にとっても日々の積み重ねであることを教えてくれています。
 天才が人類の後輩に残してくれたノートには、対話する人を奮い立たせてくれる力がありました。

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