190.実態に引きずられて
   主義主張を決めては駄目
 平成16年2月、浅野知事は知的障害者入所施設解体宣言を行ないました。これは正確には、障害者施設を地域生活条件つき整え事業といえます。解体して入所施設から追い出すのではなく、地域で暮らせるように地域に移行することが目的です。入所施設で暮らすよりも安心できる地域生活を行なえるように宮城県は支援することを宣言したものです。

 知的障害者が一旦入所施設に入ると、生涯施設が生活の拠点となり定住施設になってしまう点が問題です。プライバシーの確保、地域との隔絶、規制があることなどから、人間は誰でも自分の家で暮らすことを基本にした方が良いのに決まっています。ところが行政は知的障害者の人生の選択肢を限定させる施策を取ってきました。小学校に通学するのではなく養護学校に進学させること、社会に出る時は入所施設に入ることなど、本人に選択肢を与えることになく、知的障害者の人生を行政が決定している現状があります。養護学校や入所施設が悪いとは言っていません。選択肢を与える必要があることを述べているのです。

 「将来は何になりたいの」「将来の夢は何」など、知的障害者に人生についての質問をすることはなく「進学はここです」「ここに住んで下さい」など押し付けの部分があります。
 重い障害者であっても地域で暮らせるまちを目指すべきです。地域とはふるさとであり親元です。浅野知事の言葉に「海水浴をするために生まれてきた」というものがあります。海とは地域社会を指すもので、海は楽しいけれども危険も潜んでいます。でもその中で生きていくのが人生です。楽しみも危険も伴う海水浴を制限されることは、人生を制限されるようなものです。入所施設に入るのも外へ出るのも、知的障害者が自己決定出来る環境を持つまちを目指しています。

 宮城県では障害児との統合教育にも力を注いでいます。最初に公立校200校の内20校について統合教育を始めています。小学校で学びたいという選択をした子どもの判断を受け入れるべきだとしてモデル事業校を定め、障害児がいるクラスには補助教員を配置し二人体制を取っています。
 モデル校は20校のため、モデル校に指定されない小学校区にいる障害児の保護者から、追及されることもあります。それに対しては、実態に引きずられて主義主張を決めてはいけないとしています。この意味は、予算が不足するので全ての小学校に統合教育を同時期に採用することは出来ないけれど、一斉に出来ないから全小学校で出来る環境を整えてからスタートさせるのはおかしいというものです。
 方向性を示したらそれに向かって進むべきで、何年もかけてゴールに辿り着くことを目標にします。まず出来る小学校から進めないと、全小学校一斉に統合教育を行なうでは絶対に実現しません。200校の内わずか20校かも知れませんが、一歩を踏み出したことが重要です。これは公平や差別ではありません。辿り着くべき島影を見据えることで目標が定まります。目標を掲げることで進み具合が異なってきます。
 予算が不十分だから出来ない、やらないと判断するのでは何事も進むことはありません。島影を見る、つまり方向性を定め少しでも実行することが重要なのです。

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