現代、わが国における行政サービスに関する費用は、国家規模で45兆円、都道府県でも45兆円、市町村でも45兆円で、ほぼ同程度の予算となっています。国家予算は約80兆円ですが、その内補助金として18兆円、交付金として17兆円を地方自治体に移管しているため三者の行政サービスにかける必要は同程度なのです。
国家予算が巨大で地方自治体は小規模という感覚を持っていますが、予算は地方自治体にも下りて来ています。参考までに予算を支えている歳入は135兆円、税金が90兆円で国債など借金が45兆円となっています。
では予算の使い道を決定しているのは誰でしょうか。それは国においては国民、地方自治体、和歌山県をモデルとすれば和歌山県民、和歌山市民となります。実は市民が予算の使い道を決定しているのです。その決定方法は代議員を通じて、つまり市会議員が意思決定者なのです。
その議員の役割の変遷を確認します。
第一期は明治憲法時代から新憲法交付前までの期間でした。議員は首長の諮問機関に過ぎませんでした。地方自治は憲法の要請ではなかったのです。
第二期は戦後新憲法制定時から平成12年3月31日までの期間でした。地方自治体の仕事は機関委任事務制度の下で運営されていました。簡単に言うと国の仕事を代理していたもので、大臣の通達に基づいて業務を執行していただけでした。大まかですが県レベルでは80%程度、市レベルでは50%が機関委任事務で、市レベルでは県からの再委任を加算すると80%に膨らみます。
国は中央に権限を集中させ、全国一律の公平性と同一性を完成させる方向性に向かうこと、つまりナショナルミニマムを目的としていたため、その目的からすると必要な制度だったのです。その制度の下では地方議会や地方議員の役割は殆どありませんでした。
何故なら地方自治体が行なっている80%の予算と仕事に対する審議権がなく、条例も定める権限がなかったからです。実権を持たない地方議会で、追認し国へ陳情するだけの存在で、本来の政治の姿ではありませんでした。
ところが現在は第三期に入っています。第三期は、地方分権一括法が施行された平成12年4月1日以降からです。これは中央集権国家体制から地方分権体制に移行していることを示しています。地方自治体の仕事の70%が自治事務となり、法定委任事務は30%に比率を下げています。初めて自治体経営が出来るしくみになったのです。
地方分権とは予算と権限が地方に下りてきますから、政策立案能力と議会の意思決定能力が激しく求められています。能力が無ければ議員の仕事が出来なくなっています。規制と秩序を守るのが公務員であるとすれば、定まった規制と秩序を変えるのが議員です。そのため現在の議員には、正しく意思決定するだけの知識と見識が求められています。
もうひとつ、議員の役割の大きな柱は将来のビジョンを作ることです。それは自治体経営の観点から、公共の領域に他の勢力を入れることによって市場化を図ることです。結果の出さない人は市場(市民)から撤退を求められますから一期目であっても能力の無い人は意思決定過程から退場です。
過去、地方には行政があって政治なしの形式民主主義の時代でしたが、現在では政治が行政をリードしていく実質民主主義の時代となっています。ようやく地方自治に政治の出番が来たのですから、議員にも資質が求められています。
議員の活動はアマチュアをベースにした専門家であるべきです。
政策決定過程において重要なのは課題を設定することです。議員はその課題を見つけるための日常活動をすべきで、アマチュアの視点で市の課題を探せば良いのです。
課題を設定すれば政策立案に入ります。これは行政のプロである行政職員の仕事です。単なる事業実施職員ではなく政策立案職員に変化する必要があります。指示通りに仕事を行なっていれば良いグライダー能力ではなく、自分で考え設計できる飛行機能力が求められています。
次の段階である政策決定は議員が行い、政策の実施は行政の役割、政策評価は議員の役割です。このように行政のアマチュアとプロが役割分担を行なうことによって地方自治体の経営が可能となります。地方分権の時代に入って、地方自治体と地方議員の役割は今まで以上に大きくなっています。事業官庁から政策官庁に変化していることに気づくことから変化は始まります。
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