162.外国人の人権
 外国人の人権問題についての事例です。永住権を取っている外国の方がある市の市営住宅への入居希望で応募し当選しました。入居するに当たって申込書が必要で、本人の署名と保証人の署名が求められました。そこで同郷の外国の友人に保証人を依頼しました。その方は永住権を取得した上、日本で会社を経営していて、市民税も法人税も滞納なく納めています。
 市役所に必要書類を提出したところ、保証人は外国人では駄目で日本人であることが必要だと受け付けてくれませんでした。外国人は人間ではないのか、怒りの相談がありました。
 市役所では、外国人だと何時帰国するか分からないので保証人には相応しくないとの見解を示しています。でも永住権を取得していますし市税も納めています。日本人では市税を滞納している人もいますが、不思議なことに保証人にはなれます。市民としての義務を果たしていないのに、です。
 受け取りを拒否されたこの方は、日本人なら逃げないので良いと言うけれども、明日死亡するかも知れません。何時どうなるのかは誰にも分からないのだから、日本人なら安心で外国人は信頼出来ないとの見解は疑問が残ると反論しています。

 さてここで外国人に人権は認められるのかが論点になります。人権とは自然権ですから、通常は認める・認めないのレベルではなく、生まれながらにして当然に付与されている権利です。ところが問題となるのは人権にも種類がある点です。外国人に関する人権を大きく分けると、選挙権などの国民主権となる問題。もうひとつは生存権のような社会権の問題があります。

 今回は国民主権の問題ではないので、社会権の側面から考えて見ます。
 社会権は国家が存在するからこそ国家から認められる性質の権利です。後国家的権利ですから、前国家的権利である人権と同様に保障されないとする考え方が一般的です。参考までに、前国家的権利とは国家の存在とは関係なく、表現の自由など人が生まれながらにして有している権利を指します。
 しかし憲法では第三章において、国民の権利及び義務と記されているため外国人には日本国憲法が保障する人権を認めないとする解釈があります。
 後国家的権利である社会権においては、認めるか認めないかは国家が決定すべきものと言えます。今回は地方自治体レベルでの問題で、外国人は保証人になれない理由は条例で定められている可能性があります。地域社会の問題は、即ち地方自治体の問題ですから条例で定められていればそれに従わないといけません。

 これで結論付けて良いのでしょうか。ボーダレスの国際化時代に突入しているのに、後国家的権利だからとの理由で、人権についても過去から見直しされないままでも良いのかが問題となります。
 そこで憲法第98条2項です。ここでは国際協調主義が謳われています。これは自国民だけではなく、外国人の人権も出来るだけ保障をするように考えようとするものです。
 今や、社会権が後国家的権利であっても基本的人権であることには疑う余地はなく、外国人にも認めていくべきだと考えるのが自然です。憲法上社会権は外国人に認められないとしていても、立法施策で認めていく方向性を見出すことも、必要に応じて求められると考えるべきです。日本国内における外国人の生活形態は様々です。永住資格を認められた定住外国人と就労ビザでの入国者、或いは観光客では保護されるべき権利は異なってきます。その日本における生活形態に応じて人権保障を考えることが今日的です。
 その中で、日本に生活の本拠を置く外国人には社会権を認めても良いと考えるのが自然です。外国人に社会権を認めない理由は、日本国が存在し得ないような何か大変な起こった時、日本人は命運を国家と共にする必要に迫られますが、外国人だったら自国に帰ることも可能です。自分の生まれた国に暮らす人とそうでない人では、責任の重さが違うと言うものです。

 しかし永住権を取得している外国人、特に日本で会社を経営して生活を築いている外国人であれば、自国での生活基盤よりも日本での生活基盤が強固なものになっているため責任を伴っているため、日本で何か起きても直ぐに帰るという行動には出ないと思われます。
 加えて、市民税や法人税を納めているのであれば、国家に対する権利の主体になり得ます。義務を果たしているのだから社会権においても、日本人と同様の権利が付与されるべきだと考えます。
 以上から当該市において、外国人は市営住宅の保証人になれないとする条例は違法性が問われるべきです。
 
 本問題の結果、当該市では外国人が保証人になれないと定めた条例はなく、永住権を取得している外国人なら証明書を添付することで保証人になれると結論をいただくことが出来ました。

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