ポストのある人にとって一番大切なものは、自分の持っている知識と経験を後輩や次の世代に伝えることです。ある企業の方は、初めて役職に就いた時何をすべきか想いを巡らせた結果この結論に辿り着きました。部下に対してはマニュアルや規定に載っていない現時経験から来るノウハウを、仕事を通じてのトレーニング(OJT)により伝えていました。この人がそれぞれ持っている暗黙知の継承が日本企業の強みだったのです。
それがリストラや成果主義により、後輩に経験を伝える慣習が崩れ去っています。中間管理職にも成果主義が徹底されているため、後輩を指導し育てるよりも中間管理職として自分の成果を数字で出す必要があるからです。後継者育成より目の前にある自分の成果を目指すのは当然の心理ですから仕方ないことです。ただ組織としては暗黙知を継承する機会が失われているため、長期的に見て弱体化するのではないかと危惧するところです。
元来、個人が所有している経験から来るノウハウは、マニュアル化にしにくい性質のものです。個人の頭と体が保有している暗黙知を体系化することは難しく、組織がその知識を保有するためには人材を確保する以外には代替手段がないのが現状です。
組織が長く繁栄するためには人材を大切にする必要があるのはそのためです。定型的な仕事はパートや契約社員でも果たせますが、核心の部分や非常時の対応などは経験者が必要です。一方組織構成員は上司の処遇を近くで見ていますから、数値だけを評価され冷遇されていてはやる気は向上しなくなります。長い視点で見ると暗黙知を後輩に継承する方法が良いのか、短期的な成果を求めるのが良いのか難しい判断ですから、後はトップの考え方によります。
経験や人脈は短期的に培うことは出来ませんし、本質的な部分は基準化が図れないものです。結局のところ、何事も人材を大切にすることが基本となります。
すぐれた芸術家はひとつのことを極めるだけではなく、関連する色々な分野でも実力を発揮できます。これは芸術には感性が必要だからです。感性を持ち合わせることが舞台や生け花でも上手くいく秘訣です。
文化や感性を伝えるには実践教育が適しています。別に芸術家を育成するのではなく、人間としての感性の幅を見につけるためには、例え一回でも演習してみることが必要です。初めて体験する事と再度体験することでは取り組み方が全く異なります。
学童保育や課外授業において、社会人による実践教育の機会を持つ機会が増えています。 通常の学習に加えて社会経験者から学ぶことはとても有意義です。芸術に親しむ機会は能動的にならないと見つけにくいものです。芸術家から教育を受け感性を受け取った子どもは、人生においてかけがえのない財産を受け取ることになります。
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