40.海外旅行の自由
 少し時間が経過したので、イラクでの日本人人質の問題について客観的に話できる状況になっています。何人かと話をするだけでも見解の相違があります。正しい答えはありませんから、人それぞれ意見を持っていれば良いのです。
 事件の経過とその後については既に数多く報道されていますから論じませんが、一点海外旅行の問題について取り上げます。
 今回の事件で、海外で任意に活動する場合「一切日本国に迷惑をかけません。仮に人質になったとしても政府の救助は不必要です」と署名しないと、出国させないよう規制をかけるのはどうかいう議論が話の中でありました。皆さんはどう思われますか。
 これを検証するには、イラク人質事件の背景や発言などは全て捨象して考えます。
 問い。私たちが海外旅行に行けるのは何故でしょうか。

 答え。憲法第22条2項に保障されているからです。
 封建体制の下では、居住の場所の自由な選択や自国内の自由な移動は保障されていませんでした。特に農民層は、生涯を通じて特定の土地に縛られる状態であり、居住移転の権利がないことが封建社会の根幹を形成していたのです。
 資本主義は人間の自由な移動を保障しているからこそ、労働力の均衡、調節自由な営業活動が可能となります。従って居住移転の自由は、資本主義を成立させるために不可欠な要因です。
 居住移転の自由は、職業選択の自由と結びつく経済的自由権の性質を持っています。
 同時に、自分の思うままにどこにでも行ける点から、人身の自由としての側面も有しています。これは人格形成、精神的活動にとって決定的に重要なことです。現代では、知識を得るために人との接触の機会を持つための精神的自由の要素も併せ持っているとされています。従って、限界もそれぞれの場合に応じて具体的に検討が必要となります。

 つまりこの事件を契機として、海外旅行の自由を誓約書などに設けることにより一律に制限することは違憲となります。個別具体的な事件を基にして、その未然防止策として一般的抽象的に拡大するのは、私たちの海外旅行の自由を奪うことになりますから、認められるべきではありません。

 居住、移転の自由は、立憲先進国のイギリス、アメリカ、フランスでは自明のこととして明文規定にないほどです。立憲主義の後進国である日本で特に明文化されていることからも制約は不適当であることは明らかです。
 このような居住、移転の自由を政府が縛るという発想は、まさに社会主義国そのものの発想です。日本は資本主義国です。事件報道に流されないで、資本主義国の原理原則を身につけておくことです。

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