コラム
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2011/10/18
906    退職のこと

ある公務員、Nさんのお話です。60歳で定年を迎えました。公務員の場合、本人が希望するのであれば引き続いて2年間勤務できる再任用の制度があります。定年後の勤めですから給与は下がりますが、地方自治に貢献したいと思う人は再任用制度を活用して仕事をすることができます。

Nさんも定年後は公務員の経験を活かして、60歳からの2年間を和歌山市のために尽くしたいと考えて再任用を希望していました。ところが3月末も近づいた日、人事課から配属先の連絡を受けました。その勤務場所は、現役時代から厳しいことで知られた職場でした。仕事で厳しいのであれば経験と知識で乗り切れますし、後輩にそれらを伝えたいと希望していたのです。ところが個人で主に苦情対応が仕事となる職場でした。「今までの仕事は評価されていない」と感じたそうです。

残された2年間で後輩に伝えたいことがある、そして市民の皆さんに行政経験を活かしてお役に立てることがあると思ったので再任用を希望したのですが、希望とかけ離れた職場だったのです。Nさんは悩んだ末に退職することに決めました。人事課からは止められることも労いの声を聞くこともありませんでした。寂しい現実ですが、それを受け入れたのです。それから半年経った今、ようやく気持ちが晴れてきたようです。

「仕事だけが人生だったので退職を決断した時は寂しい思い、そして経験が評価されなくて仕事で役に立たないことを知り落ち込みましたが、今は仲間との楽しい日々を過ごしています。それでも時々は後輩と飲んで、行政課題の意見交換をしています。後輩といっても部長職に就いているなど、偉くなっていますが」という意見がありました。

苦情対応は組織として責任の伴う仕事です。責任の所在を明確にすべき部門ですから、現役で相応の役職の人が担うべきポストです。それを退職した人をそこの長にして責任を預けるのは問題です。人は気持ちによって与えられた仕事にやりがいを感じるものです。「Nさんのこの経験を活かしたいと考えて、このポストで2年間頑張ってくれませんか」などの言葉を添えて再任用ポストを伝えたら、また違った結果になっていたかも知れません。組織は非情なものですが、それでも気持ちが入っていることが必要です。再任用で給与が下がっても仕事を継続する気持ちがあるということは、市役所の仕事に役に立ちたい、恩返しをしたいと思うからです。説明不足、そして言葉がなかったことで、そうならなかったことは残念なことです。公務員を離れると、忽ち、市民としての立場でこの市で暮らすのですから、市役所にとってはお客さんです。市にとって大切な一人なのですから、去り際は大切にしたい場面だったのです。

この事例で学びたいことがあります。長く勤務してくれた相手の気持ちを大切にして、何故そうするのかの説明をしっかりとすることが大切なことです。結果として納得してもらえなくても、結果に対する説明責任は果たしたいものです。

春に退職して秋を迎えました。一緒に仕事をした後輩のことが気になって、今も付き合いを続けています。良い経験も嫌な思いも後輩に伝えられていることで組織は進化します。