コラム
コラム
2011/9/27
893    人生の修行

人は癌を宣告された時、何を思うのでしょうか。人によって受け止め方は違うと思いますが、呆然とした後に、人生に限りがあったことに改めて気づき、人生を振り返り、そして残りの人生を後悔のないものにしたいと思うような気がします。

そして本当に最後の日を迎える直前、つまり死が迫ってきた時、何を思うのでしょうか。想像できませんが、生きることへの欲が出てくるような気がします。そこで関わった方への感謝の気持ち、残される家族への思い、この世界への未練などが交錯し、多分きれいな心で最後の時を迎えるのだと思います。

次の文章は活動報告でも紹介したものですが、日が経ってもHさんの、この強さは語り草になっています。恐らく病院のベッドの上で心情を綴ったと思いまずか、死を覚悟した強さと残されるものに対する優しさが溢れています。

心から感謝、ありがとう。お世話になった皆様へ

本日は大変お忙しい中お運びいただきありがとうございました。
昨年九月にがんの中でも治りにくい、すい臓がんと診断され、十月から抗がん治療を行ってきましたが、残念ながらやはり病には勝てず、このような結果になってしまいました。人一倍健康には自信があった私としてはいまだに信じられないことですが、これも運命かなと諦観せざるを得ません。
頑固でわがままでいい加減な私でしたので、多々ご迷惑をおかけしたこともありましたが、皆様方にいろいろ助けていただいたお陰で五十八年間自分なりに満足のいく人生を送ることができました。
皆様方の今までのご厚情に心より厚くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
一人残すことになった妻に対しても私同様にご厚情を賜ればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
最後にもう一度、皆様方には大変お世話になり、本当にありがとうございました。

何度読み返しても、その心の強さに涙が零れます。去り行く者が残してくれた、人生は短くて限られたものであるという当たり前の事実。この事実を忘れて日々暮らしていますが、今日の日はかけがえのない一日なのです。少し前まで生きていたHさんは、今日の日を過ごしていないのです。最後に目を閉じ、再び目が覚めない日が来ることは想像できませんが、やがて全ての人に訪れる日が来ます。

今日はたった一日だけの今日。今の瞬間は今だけ与えられている時間。そして時間とは生きている間にだけ与えられている宝物。何も願わなくても明日が訪れる日々は希望があること。本当にかけがえのないものばかりに囲まれています。

果たしてHさんのように、死に際して皆さんに感謝の気持ちを残せるでしょうか。感謝できる日を過ごし、感謝できる人と仕事に巡り会いたいものです。最後の瞬間、どんなメッセージを書けるきれいな心を持っているのか。魂の修行は続きます。