コラム
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2011/9/28
894    いまも尚

平成23年9月、和歌山県を襲った台風12号。紀伊半島に過去最大級の甚大な被害を齎しています。一刻も早い立ち直りを目指して関係する全員がそれぞれの持ち場で全力を尽くしています。批判や反省は結果を省みて必要ですが、現時点では批判ではなくて全て前向きな活動に全力を挙げたいと考えています。そして、批判や暗い話題ばかりでは気が滅入ってしまいます。活動を加速させるためには復旧活動における元気が出る話題、感動する話題が必要です。

復旧作業の中で感動的な話があります。某製紙会社が被害を受けて工場の操業が停止しています。製紙工場では大量の水を必要とします。しかし今回台風被害によって、取水口のある地点の水の汲み上げポンプが水没して作動しなくなったのです。河川の増水による被害です。ポンプが作動しないので工場が稼動できない状態ですから、ポンプを取り替えると問題は解決するのですが、ポンプは既製品ではないため発注してから生産に着手するため、復旧までには相当の期間を必要とします。

ところで水を汲み上げるポンプは電力を使用しているのですが、実は少し前までは自家発電設備を設けていました。ところが燃料費の高騰、発電設備のトラブル続きで、工場の稼動効率が低下したことがありました。工場を止めることは即ち、製品ができない訳ですから経営的には厳しくなります。品質の良い電気を必要としたこの製紙会社は、電力会社のHさんに相談をしました。Hさんは即座に対応しました。本来であれば、自家発電設備をお持ちの方は電力会社のお客さんではありません。しかし製紙会社が困っているのだから、お客さんであろうがなかろうが関係なく親切に対応したのです。設備診断や効率性などのデータを取り、依頼者に示したのです。

そのデータと親切な対応から、その製紙会社は自家発電を止めて電力会社から電力を購入することにしたのです。品質が安定し、コストは燃料費に左右されずに安定したため、会社の業績は向上したのです。人と人との関係が発展し、会社同士が信頼関係で結ばれました。

そして予想もしない規模で紀伊半島を襲来した台風12号の被害により、某製紙会社の創業が停止したのです。停電もありますが、ポンプ汲み上げ設備が機能しなくなったことから工場は止まりました。情報を得た電力会社は、会社としてこの製紙会社を支援できることはないかを考えています。Hさんがつないでくれた両社の信頼関係を発展させるために、関係する従業員が担当の仕事を進めています。危機的状況ですが、両社の信頼がある限り難局は乗り越えられます。

そして当時、製紙会社のために尽くしたHさんは、台風12号の到来した平成23年9月時点には、この世に存在していません。製紙会社の窮地も知ることなくこの世を去りました。しかしHさんの葬儀会場には、この製紙会社からの供花が贈られていました。死を持っても関係は終えることなく共に困難に立ち向かっています。そうです、信頼を持って成し遂げた仕事は生き続けるのです。残された人が感動するような仕事を残したいものです。