コラム
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2011/9/26
892    真剣勝負

和歌山県地震・防災対策総点検専門家会議のことです。東日本大震災後の防災対策の考え方を知り、東南海・南海地震対策を講じるための最新の考え方を学ぶ貴重な経験をさせていただきました。座長はわが国の防災対策の第一人者の河田恵昭先生で、知事以下県幹部職員さんとの真剣勝負の会議ですから、防災対策に関してこれ以上の生きた学びはありません。

人が学べる機会は何通りかありますが、第一級の人物と接する機会を持つこと、そして直接考え方を知る機会を持つことも、学べる機会となります。河田先生の著書やマスコミ報道などから防災対策の考え方の一端を知ることができますが、直接お会いすること、そして真剣勝負の会議体の中の議論を聞くことは、それらと比較にならない程の生きた学びとなります。

一流の人物が入る会議はその空気が違います。座長の周囲の空気は凍っているようで、侵入することを許さない感覚があります。つまり当たり前の議論をする時間は勿体無ないという空気なのです。専門家と議論するためには、基本的な知識、現場経験、十分な議論を詰めておいて、そこで疑問として残っているものや、解決が図れないものだけを専門家会議の議題にしなければならないのです。

スポーツに例えると分かり易くなります。一流の水泳コーチに習える機会がありました。しかしプールに入ったことがなく、水泳入門の本を読んだだけでプールに入るようなものです。自分として勿体ない、コーチに失礼、コーチの時間を無駄にするなど、専門家の知識や経験を全く活用できない時間となります。

このような第一級の専門家の議論する機会は数ヶ月前に決定している筈です。例に戻りますが、水泳の場合であれば、プールに馴染んでおく、基本的な泳ぎを習得しておく、地元の水泳コーチの意見を聞いておくなどの準備をして臨みたいものです。

防災の専門家会議の場合、過去の経験を全て知り、そして最新の考え方を学んでから出席すべきです。和歌山県の対応が良く議論が展開していきました。河田先生を初めとする専門家の意見に対して、県としての検討結果と議論をぶつけていきます。現在の津波対策は、単に避難場所を設定することが正しい答えではなく、第二の避難所、第三の避難所を設定して、時間的余裕があれば、そちらに逃げる行動を促すことが、現時点の避難方法の正解であることも理解できます。全ての人が凍った空気の中にいるような特殊な会議ですから、河田先生の発する言葉の持つ意味が伝わります。普通の会議ではないことを理解しているので、頭への侵入速度が速く、そして理解しようとする力が沸いてきます。

この感覚が第一級の人物が参加する会議の持つ意義なのです。もしかしたら同じような意見を述べてくれる先生がいるかも知れません。しかし同じような発言であったとしても、参加した人に伝わる深みと重さが違います。

和歌山県の最大の課題は、災害から県民の皆さんの生命を守ることです。その議論をする場が、生命を守るための真剣勝負であることを皆さんに伝えたいことです。