コラム
コラム
2022/9/20
1890    宗谷岬ウインドファーム
宗谷岬ウインドファーム

稚内市にある宗谷岬ウインドファームには57基の風力発電が建設されています。立地しているのは宗谷丘陵ですから、もちろん最北端に位置している風力発電です。建設されている57基うち47基が牧草地にあり、残りの10基は森林地域にあります。この風力発電設備の総出力は57,000kWで、風力発電施設としては日本最大級のもので、稚内市の年間消費電力の約60パーセントの発電量に相当します。

現地を訪ねたときに案内してもらったのですが、車を降りた時の印象は「青い空と緑の大地に白い風車は壮観」の一言でした。稚内の丘陵地ですから緑の牧草地帯が広がっています。この地域は丘陵地が広がっている珍しくない大地なので、自然のままでは観光地にはならない場所です。

案内してもらった方の説明では「ここに風力発電ができたことで観光地になっています。ウインドファームが出来たから案内できる場所になったのです。稚内市全体の電力の60パーセントを発電していることもあり、市民にとって観光資源となり、温暖化対策となる再生可能エネルギーの供給源となる大事な施設です。稚内市は観光が産業なので、このウインドファームは宗谷岬や白い道と並ぶ私達が案内できる観光資源になっています。今ではなくてはならない観光施設です」と話してくれたことがあります。

僕もここに降りた時に感じたことですが「壮観でこれは観光資源になっている」ということでした。もし57基の風力発電設備がなければ、一般的な牧草地であり観光客が訪れることはなかったと思います。

風が強くて風車が回っている壮観な景観は、決して他で観ることのできないものです。

自然でも人工建造物でも、他の地域になくて壮観と感じるものは観光資源となります。宗谷岬ウインドファームはまぎれもなく観光資源です。

案内してくれた人は「稚内市で消費した残りは北海道内に相談しています」と地元の発電設備に誇りをもって語ってくれました。

北海道の大地という大自然でも、それだけでは観光資源になりません。そこに何かなければ観光地として成り立たないのです。例えば食事、温泉、ゴルフ場、キャンプ場、体験ツアーなどが考えられますが、その場所にこれらの何かをプラスしなければ観光地にならないのです。もちろん丘陵にあるのは牧草地ですから、酪農が地元の大切な産業となっています。57基もの風力発電施設を受け入れて見事に既存の産業と観光が共生している好事例です。

ところで和歌山の海は洋上風力発電の適地性があると関係者から聞いています。宗谷岬ウインドファームの事例からすると、地元産業と観光資源としても有望な洋上風力発電は共生できると思うのです。しかも東海から四国にかけて必要となる基地港として指摘を受けたなら、この太平洋ベルト地帯の洋上風力設備の組み立てやメンテナンスの拠点として有望な産業となります。何事も後追いよりも先行することが地域活性化です。「他府県の事例を見てから考える」「慌てなくても後からでも遅くない」などの台詞が飛び交うなど、すっかり後追いに慣れている和歌山県ですが、将来のエネルギー問題と地球環境保全の両立を考えられる数少ない県なのです。

国土交通省が公募した基地港には静岡県が情報提供しています。東海から関西、四国までの基地港は2030年までに一つの指定ですから、和歌山県はここでも後れを取っています。意思表示さえしていない現状は、和歌山県の10年後の将来の可能性を失わせるものです。意思表示しないことはいま直ちに和歌山県に不利益をもたらすものではありませんから、不作為によって失われる将来の利益が分からないのです。今、課題を先送りすることで失われるものは和歌山県の将来なのです。

宗谷岬ウインドファームを観て、地元の方に案内してもらって感じていることです。変化することなく、和歌山県は10年後も安泰だと考えることは果たして政治のあるべき姿なのでしょうか。稚内市の風力発電導入による地元産業と観光との共生は好事例だと思いますし、人口減少とまちの衰退の問題を考える材料になるものです。和歌山県も待ったなしの状況にあることを意識しています。