コラム
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2021/10/8
1858    宮大工の仕事

和歌山市内に宮大工の方がいるので紹介してもらい、大工としての仕事の心構えを聞かせてもらいました。今まで和歌山市にお寺や神社専門の大工さんがいることを知りませんでしたが、話を聞いて、今、自分が受け取る利益よりも、自分が手掛けた建築物を残すことで歴史に耐える仕事を心掛けて実践していることを知りました。

「見えないところで手抜きをするような設計の仕事はやらない」「合板を使った建築物の仕事は引き受けない」「良いものを作り上げようと考えていない人からの仕事の依頼は断る」など、宮大工らしい気持ちを聞かせてもらいました。

自然に種が落ちて育った杉や檜は朽ちるまでの時間が遅いので、神社の鳥居などの材料に適していることも教えてくれました。伊太祁曽神社の鳥居を建て替える時、その鳥居の根本が腐っていなかったようです。これは先の大工が良い仕事をした証拠です。最近では珍しいことですが、自然に成長した檜は生命力が強いので、鳥居として加工して100年以上も土の下にあっても腐らないそうです。これが歴史に耐えられる本物の仕事だということす。

ところが偽物の仕事は完成した時は見栄えが良いのですが、時間の経過と共にボロがでてきます。約20年が経過すると鳥居の根元が腐って倒れてしまった事例や、木とは名ばかりで、木の内部は空洞にして金属を組み入れている鳥居もあります。

そんな仕事は歴史に耐えられる代物ではありませんから「誰からの依頼であっても私は絶対に引き受けません。自分の気持ちに反してまで仕事は引き受けません」ということでした。

また「大工の仕事は良いですよ。大工は死ぬまで見習いだからです。やればやるほど技術が分かってくるので。何十年経っても決して到達するところはありません。ずっと見習いなのですが、やり続けるなら死ぬまで現役として成長できる仕事なのです」という話も聞かせてもらいました。

和歌山市では現在、有名な作家の自宅を移築する計画があります。もうその作家の東京の家は撤去されて和歌山市に材料が持ち込まれています。しかし届けられた材料は家屋の一部だけで、大半が廃棄されているようです。これでは実際の家屋は再現できませんし良い仕事にはなりません。

完成させるために必要な部材が足りないような家屋を再現しても「歴史に耐えられる建築物にはならない」と話してくれました。この家屋の移築計画を検討した意味を担当箇所は考えなければなりません。予算の範囲内でやれば良いというものではありませんから、和歌山市にとって必要と判断した仕事は予算を増やしてでも「やる」という覚悟を持つべきです。

今回も「予算がないので予算内で仕上げて欲しい」という主旨の話があったようですが、そんな理由でやる仕事は良いものにはなりません。

環境問題に関してです。合板には接着剤を使っているので撤去した後は産業廃棄物になりますが、一枚の木を使っていれば処分する時が訪れても産業廃棄物になりません。使用した材料によっても、後々の時代の専門家に評価されることになります。

環境問題の時代ですから、建築物にこのような合板を使うことは望ましいことではありません。現在の仕事が歴史に耐えられる仕事であるか、後世に引き継ぐ仕事とはどんなものか分かる話を聞かせてもらいました。本物の仕事と偽物の仕事は、その分野の専門家が見たら分かることですから、誤魔化すような仕事はしないこと。やるべきことはそれに尽きると思います。