コラム
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2016/12/22
1672    人生の宝物

元神戸製鋼の平尾誠二さんがお亡くなりになりました。あまりにも早すぎる死に驚いています。神戸製鋼の全盛期を支えた平尾選手はラグビーファン以外の人も関心を持っていたことを思うと、やはりスーパースターだと思います。バスケットのマイケル・ジョーダンやテニスのロジャー・フェデラー、メジャーリーガーのイチロー選手のような競技枠を超えて愛される人がスーパースターですが、平尾選手もそんなスーパースターだと思います。

神戸製鋼の試合を観るために花園ラグビー場に何度も行きましたし、神戸製鋼のグラウンドに行ったこともあります。記憶は定かではありませんが、講演会にも参加したこともあると思います。

そんな平尾誠二さんの追悼番組が放送されていたのを、偶然、見ることが出来た幸運に感謝しています。普段には滅多にテレビを観ないのですが、たまたまテレビをつけると平尾誠二さんの追悼番組が放映されていたので最後まで観ました。

選手時代の華やかさは述べるまでもないのですが、最も感動したのが闘病生活のベッドでインタビューの質問に応じたコメントでした。がんの末期症状だった平尾さんは「もう助からない」と悟っていたような語り口調で、人生の宝物について語っていました。

「僕の顔はこれまで50針以上縫っているんですよ。傷だらけで、そりゃ痛かったですよ。この顔の傷を見た山口監督(元伏見工業の監督)が『平尾、よく頑張ったな』と泣きながら言うのです。僕はね、こんな小さな話が人生の宝物だと思うんですよ」とインタビューに応えていました。

素敵な宝物のような話です。人生の宝物って、自分が歩いてきた道で見てきたもの、歩いている道で見つけたもの、大切な人から言われたことなど、小さな物語のことなのです。

その時は何でもないような小さな物語は誰でも持っているものです。人は人生という旅を続けていますが、その道中で出会った出来事や言ってくれた言葉が宝物になっていくのです。その時は大切なことだと気付かないものであっても、その後忘れてしまっていたことであっても、たいしたことのない会話だと思っていても、後に時々思い出す出来事があります。それは些細な小さな物語ですが、小さな物語こそ人生の旅で得ている宝物なのです。

宝物とは宝石やブランドモノではなく、自分が努力した結果、学校や会社、社会や人からもらってきた物語が宝物なのです。きっと毎日のように、私達は小さな、小さな宝物に出合っています。それは小さ過ぎて、当たり前過ぎて、価値のあるものだと気付かないので、その時は宝物だと思わないのです。

そんな人生の宝物は、お金で買えるものではなく、盗むものでもなく、無理に得ようとするものではなく、自分が歩いている中で周囲の人から与えられるものなのです。

温かいコーヒーを会話と共に飲んだこと。疲れた時にそっと休む時間を得られたこと。旅行のお土産をもらったことなど、日常の中にあり過ぎて特別なことではないと思うことが、実は特別なひと時であり、自分が主人公になれた小さな物語なのです。

毎日、人から与えてもらっている小さな宝物を人生の宝物だと気付いている人が、幸せな毎日を過ごしているのです。そして後で振り返った時、「たくさんの宝物をもらいながら生きてきたんだな」と思うのです。それが幸せなことだと思うのです。