コラム
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2016/9/8
1662    裁量

ちょっと感動した話があります。和歌山市から大阪市内に通勤しているIさんがいます。JR天王寺駅から和歌山駅に帰るために「特急くろしお」に乗車しようとしていました。そのホームに大きなリュックサックを背負った二人組がいました。

Iさんは、恐らく東南アジアからの観光客だと思ったそうです。その二人は慣れていなかった様子で、どの電車に乗れば良いか分からなさそうにみえました。しかし「関西空港に向かうのかな」思って声を掛けました。やはり帰国するために関西空港に行きたいようなので、「この特急電車に乗れば関西空港に行くことができますよ」と言いました。

その二人はIさんの後について「特急くろしお」に乗車しました。そこでIさんは「外国から来た人なので特急料金が必要だと思っていないだろう。僕が誘導したのだから特急料金を支払おう」と思っていました。

特急電車なので車内の改札に車掌さんが回ってきました。Iさんは自分の特急券を持っていたので車掌さんに特急券を見せました。そして「後ろの座席に乗っている二人分の特急券を僕が支払います。お幾らですか」と尋ねました。

車掌さんは後ろの2人を見てから「失礼ですがお連れ様ですか」と質問しました。Iさんは「違いますよ。アジアからの観光客だと思いますが、関西空港行の電車がどれか分からなかったようなので僕が、「この電車に乗れば行けますよ」と誘いました。後ろの座席の二人は特急料金がいるとは思っていないので僕が支払います」と答えました。

車掌さんは「この方の連れではない」と分かったので、「お連れ様ではないようですね」と尋ねました。Iさんは「はい」と答えた後に、二人分の特急料金を支払おうとしました。

車掌さんは「後ろの2人は間違ってこの電車に乗ったようですね」と言いました。Iさんは「いえ、僕が誘いましたから」と答えましたが、車掌さんは「間違えて乗車したようですね」と言った後、続けて「間違えて乗車したお客さんから特急料金をいただくことはできません」と答えました。

その時、Iさんは車掌さんの考えていることを理解したので、「もしかしたら間違って乗車したようですね」と答えました。車掌さんは笑顔で頷きながら、後ろの席を素通りして、その後の席へと改札に向かいました。

その後、「特急くろしお」は関西空港への乗換駅の日根野駅に到着しました。車掌さんはIさんの後ろの席に来て「関西空港へはここで降りて下さい」と二人を駅のホームまで誘導してくれたのです。ホームで、次に来る関西空港行の電車に乗るように伝えて、再び「特急くろしお」に乗り込みました。

この光景を見ていたIさんは幸せな気持ちになって、「JRさん、粋な計らいをしてくれるね」と呟きました。

社内の規定通りに仕事をするなら、如何なる理由があったとしても二人に対して特急料金の支払いを求めたと思います。周囲が納得してもらえるような理由をつけて見逃してくれたのです。この気持ちはIさんに伝わりましたし、外国人観光客にも伝わったと思います。きっと二人は、Iさんと車掌さんの行為を見て日本人の優しさを感じていると思います。思いやりに満ちた話を聞いて幸せな気持ちになりました。