コラム
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2016/9/5
1661    与えられたもの

タクシーで一緒に移動した先輩が降車する時、メーターを見ると730円でした。そこで1000円札で運賃を支払いました。運転手さんが270円のお釣りをくれたので先輩が受け取りました。そして「暑いからジュースでも飲んで下さいね」と言って170円を運転手さんに渡しました。

運賃を支払う時のタクシーの中のちょっとした行為ですが、とても素晴らしい光景でした。「人に香水をふりかけると自分にも少しふりかかる」という言葉がありますが、まさに運転手さんに香水をふりかける行為でした。車内でこの行為を見た僕にも香水はふりかかりましたし、先輩にもふりかかりました。暑い夏の一瞬の涼を楽しめました。

先輩に「170円を渡しましたよね」と尋ねると「そうです。270円お釣りをもらって全部渡すと高い位置にいるように思われるかも知れないので、100円だけお釣りでもらって残りの金額を渡しました」と話してくれました。

1000円札で支払ってお釣りをもらわないことはありますが、お釣りをもらわないでいるよりもお釣りでもらって運転手さんに渡す方が、より感謝の気持ちが相手に伝わると思いました。「暑いからジュースでも飲んで下さいね」という言葉を添えて渡しているのですから、とても気持ちが伝わります。

そして「社会は色々な人で構成されています。それぞれの人が社会の中で役割を担っています。その役割に対して感謝の気持ちを持つことが大事だと思います。タクシーに乗せてもらえるから暑い夏を快適に目的地まで移動することができます。もしタクシーがなければ目的地まで歩いていくことになりますが、この暑さだと汗をかいて到着した直後は仕事にならないでしょう。そして移動する時間を短縮できているのだから、タクシーは私達を快適に、そして大切な時間を余分に与えてくれているようなものです。だから私は、社会で大切な役割を担ってくれている人に対して尊敬の気持ちを持っています。社会は人が助け合って生きているのです。私も社会に貢献していると思っていますが、どんな人も私と同じように自分の仕事が社会に貢献していると思っているのです。感謝の気持ちを伝えるのは「ありがとう」の言葉でも十分ですが、そこに感謝の気持ちを表す少しのお金があれば、もっと気持ちは伝わりますから」と話してくれました。

この行為で、先輩が周囲の皆さんから慕われている理由が分かりました。周囲への気配りと感謝の気持ちを伝えることを言葉と行為で行っているからです。相手に香水をふりかける行為は好感を呼びますし、自分にも香水の一部がふりかかります。

この先輩は今年入院をして手術を受けました。回復した後は、以前にも増して社会と人のお役に立ちたいと思っています。

「入院をして、命は与えられているものだと思いました。与えられた命だから自分だけのために使ってはいけないと思います。与えられたものだから、人に与えなければ責任を果たせないと思うのです」。

人は約80年という命を与えられています。自分のものではない「生きている」という時間を与えられているのです。与えられたものを返す時は、与えてくれた以上の価値に高めて与えてくれたモノに返したいものです。