コラム
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2016/9/20
1663    生命保険の証書

平成28年8月16日。夏風邪の母を訪ねた時、「そうそう、これを持っておいて」と言って机から書類を取り出してきました。「何だろう」と思って聞いてみると、母は「生命保険の証書です」と言って渡してくれました。名義は母で受取人は「靖明」と書かれているように父の名前になっています。

「この生命保険の受取人の名義を変更しているので、持っておいて下さい」と言うのです。

「名義は父のままになっているよ」と言うと、「変更したのにね。変更手続きができていないのかな」と言いました。「変更した証書を他の場所に保管しているのでは」と言うと、改めて机を探しましたが出てきません。

机を探しても変更した書類が出てこないので「探して今度、渡すから」と言うので、「もう一度、証書の入った封筒を見せて」と封筒を受け取りました。

中には証書と受取人の変更届の結果通知が出てきました。「封筒の中に変更届の完了届が入っていたよ」と伝えると、「変更できていたから大丈夫だね。では持って帰っておいて下さい」と言うので証書の入った封筒を受け取りました。

本当であれば証書を受け取りたくなかったのですが、「受け取らないと困ると思うから、受け取っておこうかな」と思い、「預かっておくから」と言いました。

生命保険の証書を使う場面は全く想像できませんし、絶対に使う場面は来て欲しくありませんが、生命保険の証書を受け取る時期が来ている現実を寂しく思いました。

コツコツと毎月掛け金を支払ってきた証の証書が手元にあります。生命保険は自分のためではなくて子どものために掛けているものです。「いつかの日」のために、子どもがお金で困らないようにと毎月掛けているのです。絶対にそんな日は来て欲しくありませんし、お金では買えない大切な人を失いたくありません。

命が証書に置き換えられる日は、ずっとずっと遠くの未来であって欲しいと願うばかりです。生命保険の名義は「片桐敏子」であり、受取人は「片桐章浩」となっています。「まさか生命保険の証書を受け取る日が来るなんて」と少し悲しい瞬間となりました。

昭和10年5月生まれの母は81歳です。ただの夏風邪ですが心配です。早く元気になってあちらこちら出掛けて欲しいと願うばかりです。

「膝が弱るといけないので夕方に歩いています」と言いました。歩くことは大事なことですが、まず夏風邪を治すことが先決ですから、「体調が戻るまで決して無理をしないで」と伝えました。「無理をしないで」と言っても母は無理をするのは分かっていますが、それでも言いたいのです。母の命は一人のものではありません。かけがえのない大切な命なのです。

先週、「両親は防風林みたいな存在で、僕を守ってくれているのです。防風林がなくなれば風も嵐も雨も直接浴びることになります。その時に両親の有り難さを実感することになりますし、自分の実力が試されることになります」と話してくれた人がいます。

父は以前「親はついたてみたいな存在」と言ったことがあります。ついたても防風林も、社会の嵐から温かく子どもを守ってくれているのです。

この先、20年も30年も「ずっと母の子どもでいたい」と思います。今日受け取った生命保険を使わないで済むように強く願っています。