コラム
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2015/12/15
1625    知覧

人は自分で感動した話を語ることができます。鹿児島県南九州市の知覧は特攻隊員が飛び立った地です。そこで聞いたいくつかの話は涙が零れてくるものでした。

その中で、特攻隊員の穴沢少尉と智恵子さんの物語は涙が出てくるものでした。

穴沢少尉と智恵子さんは婚約をしていました。自分が特攻隊として突撃する日が訪れるとは思わなかったからです。穴沢少尉は智恵子さんからプレゼントしてもらったマフラーを訓練中いつも首に巻いていたそうです。飛行士としてのマフラーと千恵子さんからもらったマフラーの二つを巻いて訓練をしていたそうです。穴沢少尉にとつてマフラーは智恵子さんの分身だったと思います。

そんな穴沢少尉にも特攻命令の日が訪れます。再び会うことができなかった智恵子さんは、後に穴沢少尉が帰らぬ人となったことの知らせを受けます。遺骨もなくこの世に生きた証が存在しなくなった穴沢少尉の思い出のものが、たった一つだけありました。それは穴沢少尉が吸ったたばこの吸い殻でした。遺骨もない、形見の品もなかったので、智恵子さんは生涯、そのたばこの吸い殻を大切に持っていたそうです。たばこの吸い殻は単なるたばこの吸い殻ではなくて、穴沢少尉その人だったのです。

智恵子さんは2013年5月にこの世を去っています。会いたくても会うことができなかった二人の物語を聞いて、二人の想いを引き裂いた戦争は人の幸せを奪うものであることを知りました。幸せこそ人が生涯を通じて追及すべきものです。それが20歳という若さで途絶えてしまったことを思うと残念でなりません。

穴沢少尉が智恵子さんに宛てた手紙の中の一節です。「あなたは過去に生きるのではない。勇気をもって過去を忘れ、将来に新しい希望を見出すのだ。あなたは、今後の一瞬一瞬の中に生きるのだ」。

自分が生きられない未来を生きる人に託したメッセージです。未来があるということが、どれだけ幸せなことか思わずにいられません。明日という未来が訪れると思うから人は希望を持って生きられるのです。明日の朝が訪れないと思うだけで、今日を生きる元気はなくなります。知覧には生きたくても生きられなかった若者の魂と心からのメッセージが詰まっています。言論の自由のない時代、しかも特攻前夜などの時に記した手紙には、大切な人に最後に話したかった思いが込められています。

明日がないと分かっているとすれば、自分はどんな言葉を残すのか想像できません。10代後半から20歳代の若者ですから、人生で得た言葉ではなくて、母親や家族に思いを伝える言葉になっています。まだ人生を語るほど生きていないのに明日が閉ざされてしまった。そんな状況で語った言葉に心が動かされます。ずっと年下の先輩達の言葉が、年上の後輩である私達に人生を教えてくれているのです。

  • 自分のために生きるのではなくて人のために生きることが尊いこと。
  • 限られた時間を生きているのだから、この一瞬を生きることが人生であること。
  • 人に心を伝えることが自分の存在だということ。
  • 花も木々も青空もここで見えるものがきれいなものであり、守るべきものであること。

知覧で生き方を知ることができます。