コラム
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2014/4/9
1441    ルーズヴェルト・ゲーム

本当に面白い。それが池井戸潤氏の「ルーズヴェルト・ゲーム」です。崖っぷちに追い込まれて青島製作所、そして青島製作所野球部。経営統合の危機、そして野球部廃部の危機に追い詰められた時、「今をやり抜くしかない」と立ち向かった人間のドラマです。

経営効率化や数字が優先される時代ですが、ここでは忘れてはならない大事なものがあることを教えてくれます。

「この工場が作っているのは、カネ儲けのための製品だけじゃない。働く人たちの人生であり、夢だ。いまこの会社の社員として働くことに夢があるだろうか。彼らに夢や幸せを与えてやるのもまた経営者の仕事だと思うんだが」(216ページ)創業者である青島が語る場面があります。合理化と効率化、業績回復を優先させる余り従業員を人件費と見ている経営者たちが、徐々に考え方を変えていく場面です。

同じように年間3億円の経費を投入しているかつての名門野球部もお荷物という立場に立たされます。3億円の経費を稼ぐためには30億円の売り上げが必要であることから、野球部の存在意義に疑問を唱えるのです。

しかし人は人件費で図れる存在ではありません。仕事だけのために会社に来ているのではありません。仕事を通じて成長できることや同僚たちとの交流、そしてこの会社、この人のためならと思う気持ちがあるから働いているのです。人は働いて給料をもらうためだけに会社勤めをしているのではありません。

そして「縮小均衡に明日はない」(424ページ)にあるように、従業員が萎縮するような経営方針では会社そのものが存在し得なくなるのです。夢と幸せという会社経営に関係のない言葉が、実は会社を発展させているというものです。

ルーズヴェルト・ゲームとは野球の試合は8対7の試合が一番面白いとルーズヴェルト元アメリカ大統領が語った言葉だそうです。しかも1対1、2対2という展開ではなくて、例えば5対0から、5対1、6対2、7対3と相手に追加点を入れられて、そこから追い上げていく展開が最も面白いと言います。7対3から最後は7対8へと試合を逆転させることが、真のルーズヴェルト・ゲームなのです。

読んで思うことは、7点を取るためには合理化、効率化、経費削減、予算カットなどを積み重ねると達成できるということです。しかし8点を取ろうとしても、それだけでは達成できないのです。逆転するための大事な1点は、夢や幸せを与えることなのです。順調な人生なら、稼ぐための方法を考えるだけで良いのです。しかし人生には逆風が付き物です。逆風の時は縮小したくなりますが、縮小することはそれを維持できないので弱体化していくことを意味しています。

逆風の時はその場で耐えること。耐えるための力になるのはこの次に訪れてくれる夢であり幸せです。人も会社も発展しようとすれば、支えてくれる人の力が必要となります。人を経費と考えて削減すると、支えてくれる人が少なくなります。逆転するためには縮小ではなくて、伸びようとするための夢と幸せが必要です。そう追い込まれた試合を最後に逆転するためには夢を持ち一緒に幸せを感じられる人が必要なのです。7点差を終盤でひっくり返す痛快なルーズヴェルト・ゲームは、夢を持つことで8点目を得点することができます。