コラム
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2013/7/5
1287    満ちれば欠ける

「満ちれば欠ける」。元横綱隆の里が横綱昇進の時に当時の師匠の二子山親方から伝えられた言葉です。喜びに満ちていた気持ちが一気に引き締まったと言います。望んでいた最高位を得た時の喜びは人生の絶頂期となりますが、その瞬間から下り始めることに気付くことが大切だという教えです。

どんな人でも全盛期はそれほど長く続きません。最高位に上り詰めてもそこにいられる期間は人生のほんのわずかの時間です。会社で重役になったとしても、そこに至る期間と比較すると短いものです。企業の役職に就いたとしても、同じポストにいられるのは長くて5年程ではないでしょうか。スポーツ選手の全盛期も現役生活の中の数年間だと思います。歴史上の英雄も同じです。ナポレオンにしても皇帝の位にいたのは数年間です。最高位に就任したということは、もうそれ以上はありませんから、駄目なら引退、会社人なら定年によりその地位を退くという選択肢があるだけです。そう思うと地位を求めることは儚いものです。

ただ全盛期は限られているから、その地位にいる時に全力を傾注する必要があります。その地位にいる時に力を温存していると、二度と力を発揮できる機会は訪れません。自分が最高の位置にいる時は、自分の実力や能力から自分で分かるものです。最高にやり切るときは誰にでも訪れると思います。その時に最高の自分でありたい、そう思います。

最高位にいる時、全盛期は人生の中のほんの一瞬の出来事に過ぎません。そこを目指し頑張ってきたのに、その瞬間が最高の時だというのは酷ですが、限られた時間だからこそ、その期間に全てを発揮すべきなのです。

天は人に「その時」を与えてくれます。「その時」こそ力を発揮する時であり、自分の力や人脈を出し惜しみしないでその地位に相応しい役割を果たしたいものです。そこにいる時に、不満や泣き言を行っている時間は余りにも勿体ないと思います。最高位という限られた期間の中で最高の自分を発揮することが人生でやるべきことです。

志半ばで、その場所から退場しなければならない事態にだけはなりたくありません。笑ってその場所を去ることができるような仕事、役割を果たしたいものです。

そのためには学ぶことを忘れずに、常に素直で謙虚で出会う人から学ぶ姿勢を保ち続けること。その地位に奢り、偉そうにしていると人は助けてくれませんし、寄っても来てくれません。人から学ぼうとする気持ちと姿勢を持ち続けていると、いつまでも人は支えてくれます。地位は強固な地盤に存在しているではなくて、多くの人によって与えられているものなので、偉そうになると人は遠ざかります。人が遠ざかると基盤は崩れますから、その地位は長く続かないのです。

「満ちれば欠ける」ことを知り、常に謙虚で学ぶ姿勢を保ち続けることで、欠ける速度を減速させられると思います。最高位に付いても輝き続ける人であれば、人は排除しないで更に押し上げようとしてくれるからです。

人生は右肩上がりではなくて、長く続く坂を苦労して登り続けるものです。なかなか頂上は見えなくてどこまでも登り続けます。そしてようやく頂上に辿り着きますが、そこからは急な坂になっています。何十年かけて登ったのに下る速度はとても速く数年です。だから頂上にいる期間に役割を果たし、その時を大切にしたいものです。