コラム
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2012/12/20
1167    航海

外洋を航海してきた元キャプテンから話を伺いました。初めて聞く話ばかりで海の男の世界に感動しました。

船の操縦は身体が震える緊張感があるそうです。中でも台風の時や荒れている海の航海は神経をすり減らすことなります。カムチャッカは難所で狭い上に海が荒れるので通過することが困難な海峡だと知りました。大きく上下する波は10万トンのタンカーの船体でも折ってしまうほどの威力を持っているそうです。船体は波の上に乗り上げた場合や波の底の位置にある場合は、ぐにゃっと曲がる構造になっているのです。10万トンのタンカーになると全長300メートルにもなり、船体が硬直化していると波に挟まれるとポキッと折れることもあるようです。そんな困難を乗り越えてエネルギーやわが国に必要なものを運んでくれているのです。

日本の黄金時代は世界各国に航海をしていたのですが、国力が低下すると取引が減少するので大型船の需要が減少していくそうです。海運力は国力を表していることも知りました。

またお客さんを乗せる例えばフェリーの操船も大変神経を使ったそうです。お客さんの安全は最優先ですが、船の値段を知ると驚くほど高価で船体を傷つけると会社に大きな損害を与えることから、慎重に慎重を重ねることになります。何気なく、当たり前のようにフェリーに乗船していますが、出港と入港の時はキャプテンが直接操船して最大限の注意を払ってくれているのです。お客さんの立場である私達は、フェリーに乗船すると運転しなくて良い時間となり、休眠するなどリラックスタイムとなります。そんな安心はキャプテンが守ってくれているのです。

ホルムズ海峡の航海では、産油国に近づくと油田から炎が炎上している光景を見ることになり、その壮大な光景に圧倒されたことも聞きました。私達が日本のエネルギーを運ぶことで国の繁栄を支えているという自負心が感じられる瞬間でもあります。仕事に誇りと国を背負うという意識が感じられます。そんな仕事に携われることは誇りであり、国の一員であるという気概が生まれることになります。わが国を思う気持ちの強さは桁違いです。

現在は海の男を引退して、子ども達や若い海の男の候補生に経験を伝達している仕事に携わっています。高度成長の時代の世界に伸びた航海の経験を、個人としてもわが国の財産としても伝えてくれているのです。

日本からアメリカまでの太平洋の航海には約2週間が必要となります。その時に見た無数の星のカーテンや夜の海の静けさなど、普段は見ることができないくらい信じられない美しい光景を詩に残しています。南海フェリーの船内で流れている「海の向こうに」がキャプテン時代の経験に基づいた歌詞なのです。

私達が経験できないことを言葉にして、歌詞にして、そして歌にして伝えてくれています。

そんなことを知って南海フェリーに乗りました。いつもと違う感覚がありました。知らない人は簡単に思うことでも、簡単なことは何一つないということを感じるからです。見えないところで頑張ってくれる人がいるから快適で安全な生活が成り立っているのです。

最後に印象的なことがありました。危険な航海を安全にやり遂げられた要因、お客さんの安全を保てた要因について聞かせてくれました。

それは「女神がついてくれていたから」というものでした。プロ野球の小久保選手が試合中の奇跡のようなプレイについて「野球の神様がいるとしか考えられない」と表現してくれたように、この海のキャプテンも安全な航海には「女神がついてくれていた」からだと話してくれました。

どうやら自分が向き合うことに真剣に取り組んでいる人の下には、その分野の神様が君臨してくれるようです。野球なら野球の神様が、航海なら海の女神が。では私達の下にも神様が降りて来てくれるように、真剣にそして全力で取り組みたいものです。