コラム
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2012/10/15
1125    前例を作る

「価値を見つけることがお金に変わる」。かつて上場企業の役員だった人からそんな言葉を聞きました。戦後、小さな何もないところからスタートした会社が東証一部に上場するまで経営者の一人としてビジネスの世界に生きていました。その人はお金を儲けることを考えるよりも、社会で必要とされる価値を創造することでお金が会社に入ってくると考えていました。つまり不必要なものを売りつけたり、無用なものを営業トークで言い包めて販売することは短期的に通用したとしても、中長期的には受け入れられるものではありません。企業と人が成長していくためには価値のあるものを社会に送り出すことが必要なのです。

その結果がお金につながるという公式です。お金とは価値の代価であり、お金そのものに価値があるのではなくて、価値のあるものに価格がつけられるものだからです。

そして価値のあるもの、新しい技術とは常に融通性を発展させてきた歴史であるとも伝えてくれました。それはどんな分野にも垣根が存在していますが、部門とはそれまでの技術では超えられないとされていることを分けて考えるために存在しているのです。しかし技術革新によって、それまで交わることがないとされていたもの同士がくっつけられることがあります。そんな場合は垣根がなくなります。例えば、法律を改正して農地に太陽光発電所の設置が認められたとすれば、農林水産と経済産業の分野の垣根が少し取り除けられたことになります。それまでの法律なら農林部門は農地を農業以外のもので活用することは考えられないことです。そして経済産業の分野では新エネルギーの推進は国策なのに農地を活用できないので垣根が存在しているのです。

このように、もし法律が改正されて新しい価値が生み出されるとしたら融通性が高まったといえます。新しい価値が生み出されるとそれまでの垣根は邪魔な存在となり無用になるのです。新しい製品も同じで、携帯電話とカメラを融合させるためには、それまでの部門の壁を取っ払って同じ部門に技術者を集めなければなりません。それまでの組織にあった垣根は存在しなくなるのです。

社会で必要となる新しい価値が創造されると、法律もそれに応じて改正していくことが必要となります。前例がないから出来ないというのではなくて、前例になり得る事例が発生すれば、それが社会で実行できるような体制や法律の改正を行い、前例を作れるようにするのが優れた会社や役所の仕事なのです。

前例がないのからできないのではなくて、前例がないので前例になるような事例を検討して前例になるようにする、それが仕事です。その過程では当初は想定できない問題が発生します。その問題に対応するには、つまずき、つまずき進んでいく以外にないのです。

前例を認めないことは実に簡単です。「前例がないから」と断ればよいからです。しかしそれでは成長はありませんし、社会にそれまでにない価値を送り出すことはできません。そんな仕事をしていても企業も役所も、そして大切な人としての成長はないのです。

私たちは社会で必要される価値を創っているでしょうか。前例がないことに挑戦しているでしょうか。時には前例を作る本気の覚悟を持って壁に立ち向かいたいものです。