コラム
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2012/7/26
1083    過信は禁物

過信は禁物、初心は忘れないこと。言い古された言葉ですが、中々実践することは難しいことです。個人であっても初心を維持することは困難です。それは経験を重ねていくと当初は難しかった技や技術であっても、やがて簡単に行えるようになるからです。上達した段階で初心は忘れてしまいます。経験値を上げることによって上達することは人にとって必要なことですが、時には初心に戻ることも大切なことです。

人であれば仕事や生き方に行き詰って立ち止まった時に初心を思い出すことは可能ですが、組織の場合はそうはいきません。そのことを示すエピソードを聞きました。

今から40年前の巨大技術が完成した時のことです。話を聞かせてくれた人が人類の科学の結晶であるこの巨大技術の現場の視察に行き、その時の責任者に次のように尋ねました。

「この技術は安全であると言えるのでしょうか」。責任者は答えました。「私が責任者でいる時代は安全だと確信を持って言えます。しかし過信が芽生えてくる時が来るかも知れません。その時は事故を起こすことになるかも知れません」。予言とは言いませんが、技術の継承の難しさを伝えています。

組織においては技術を開発した当初の人達が現役でいる間の安全確保は大丈夫です。しかし初期のメンバーが組織を去った後が心配なのです。開発に関っていないので、どうしても欠点や肝心なしくみが分からないことがあるからです。マニュアルや口頭で技術と制御を伝えたとしても、やはり開発者や初期メンバーには敵わないのです。

形の上で技術の継承が成されたとしても、本質的な部分、つまり非常時の対応が疎かになるのです。通常は安全に運転することができます。巨大技術が事故を起こすのは、稼動してから何十年も経った時や安全が当たり前だと思い始めた時です。

初期の体制から二代目、三代目と移り変わっていく過程において、大切な精神は受け継がれなくなって行きます。それは何もないことが当たり前だからです。何もないことが当たり前で、何か発生した時の対応方法を経験していない人が、次の人に経験値として伝えることはできないのです。紙に書いた手順などを引き継いで「何かあった時は、このマニュアルを読めば良い」という程度の口頭での引き継ぎになります。これでは危機管理に直面した場合、対応ができないのです。

平時に非常時に備えておくことは言うほど簡単ではありませんが、事業継続をするためには、やはり非常時のことも考えておく必要があります。

組織として初心を忘れないこと、初心に帰ることは、初心を持っているメンバーがいなければ難しいものです。ではどうすれば初心を大切に思えるのでしょうか。それは重要な仕事だという認識を持たせることです。重要な仕事とは、必要な予算が確保できている。組織の中で重要なポジションに位置付けられているなどの配慮が必要です。

自治体では近年、防災対策部門が組織の建制順のトップに持ってきています。それが重要な仕事だと内外に知らせることになります。過信をしないためには、万が一の対応が重要だと考えている組織であることです。