843. 最高の今日

少し古いのですが2009年9月13日、イチロー選手が9年連続200本安打を達成した時のインタビューを教えてもらいました。イチロー選手の打撃理論は、「相反する考え方が自分の中に共存している」というものですが、ここでは「これでよしという形は絶対にないってことは分かっている。でも、今の自分が最高だっていう形を常に作っている。この矛盾した考え方が僕の大きな助けになっている」と話していました。

 この解釈は、「今の自分の打撃を最高と呼べます。しかしこれこそが究極の最高という打撃など絶対にない」と考えられます。(「未来を変えるちょっとしたヒント」小野良太著、講談社現代新書P120、2010年)

 私たちの生活にもぴったりと当てはまります。現時点の自分でできることは、今の姿であり今の行動が最高のものですが、それは今日の自分の最高の姿であって、それが最終形ではないのです。明日になれば、明日の自分の姿と行動が最高のものになっているべきなのです。つまり今日の自分は今日までの最高の自分を生きているのですが、明日になれば明日の自分が自分史上で最高の自分を生きているべきなのです。明日になって、「昨日の時分が最高だった」だとか、「あの頃が最も輝いていたのに」という言葉は自分に聞かせたくないものです。

 常に今日の自分が最も素晴らしいと思うことが、今を生き、そして明日も生きるであろう私たちに相応しい考え方なのです。でも明日は今日よりも素晴らしい自分であると思うし、明後日はもっと素晴らしい自分でいられると思える自分でありたいものです。そして一ヵ月後は、今の自分よりも数歩先に進んでいますし、一年後は陸上のトラック換算で一周は先に進んでおきたいものです。一年後も同じ位置で留まっていることは避けたいものです。そんなことをしていると自分と勝負するどころではなくて、同じ目標を持っている誰かに追い越されてしまいます。自分が進歩しているのであれば相手の存在は気になりませんから自分と勝負できるのです。自分と勝負する方が相手(自分のことです)の性格が分かっていますし、昨日や一年前の自分と比較できますから楽しいのです。

 私たちは常に今日が最高の自分を生きています。今日までは駄目だったけれど、明日は最高の一日になることはないのです。今日が最高の一日だと思えるから、明日はそれ以上の最高の一日になるのです。人生はドラマのように一日で大転回することはありません。

 今日の結果を基にして明日が訪れます。今日の自分の考えと行いが、最高の明日を連れてくるのです。ここまで行ったら人生を終えても良いと思っていないでしょう。これを達成できたら死んでも良いと、本気で思わないでしょう。それはここまで達成したら自分が完成するというものはないからです。常に進歩し続けることを、内心であったとしても自分では思っているからです。

 復習です。今日の自分が最高の自分を生きています。しかしそれは今日までです。明日になれば、今までで最高の自分を生きられます。明後日もそうです。それは生きている限り続くのです。未完成のまま終えるのですから、最高の今日を恐れることはありません。


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