814. 甲子園

新しくなった甲子園に初めて行ってきました。舞台はセンバツ高校野球の一回戦の向陽高校対開星高校でした。開星高校は昨年秋の中国大会で優勝した強豪チームでしたが、結果は2対1で向陽高校が勝つことができました。今回の試合は、試合後の開星高校の監督のコメントが話題になりました。しかしそのことによって、向陽高校の清々しさが全国区になったので、ある意味良かったのかも知れません。
 この試合はアルプススタンドから観戦したのですが、上段まで応援団で満員でした。それぞれが「KOYO」の文字の入った白色の応援用の帽子を被っての応援でしたから、スタンドは真っ白に染まっていたと思います。
 スタンドの雰囲気は和歌山と向陽一色で、守備の時は藤田投手がストライクを取る度に
拍手が沸きあがりました。アルプススタンドでの母校の応援は最高でした。「一回戦を勝てれば」と話していたのですが、強豪相手に堂々の勝利でした。
 それにしても応援団は凄いの一言です。バスは50台、JR和歌山駅から甲子園に向かいましたし、それ以外にもOBが続々と集まってきました。懐かしい顔にも出会えましたし、隣に座っていたのは、海草か向陽かといった年代の皆さんでした。
 大歓声が響くとはこのことで、応援で圧倒したいと思っていたのですが、それ以上の盛り上がりとなりました。ワンチャンスとなった4回裏は、タイムリーヒットが二本も続いたのですが、総立ちの応援となりました。この場面は、再現することが難しいアルプススタンドの雰囲気でした。拍手、喝采、総立ち、そして歓声。郷土を感じられました。
 甲子園で故郷を感じるとは思いもしませんでしたが、得点のシーンでは確かに故郷の香りが強くありました。
甲子園の魅力は全員が主役であることだと思いました。選手だけが主役ではなくて、スタンドの応援団もそれぞれが主役なのです。様々な人生を生きている人たちが故郷の旗の下に集まり、分け隔てなく同じ結果を求め、感動を共に作っている。それが甲子園なのです。傍観者でいると感動することはありませんが、ここでは全員が主役になれます。
ある人は「あの頃」を思い出しているかも知れませんし、またある人は「これから希望」を見つけ出したかも知れません。そして祝日に試合があったことから、応援に駆け付けた人たちは、束の間の同窓会も楽しむことができました。故郷で感じることのできない故郷を体験できる空間がアルプススタンドですから、ここでは常に懐かしさと感動が詰まっています。
そしてグラウンドでは選手が9回を駆け抜けました。こんなに広くて美しいグラウンドで試合ができることは幸せなことです。二度と巡ってこない春の一日を強烈に刻んでくれました。
 知らなかったのですが、いまは2回の表と裏に両校の校歌が流れます。0対0で勝負の行方は判らなかった時ですから、甲子園に向陽高校の校歌が響き渡りました。
 そして歓喜は9回表のピンチを切り抜けた瞬間と、試合後に流れた校歌の斉唱です。勝利の一瞬と故郷の記憶を刻もうと、シャッター音が響いていました。まだは肌寒い春の午前の1時間45分の記録と記憶でした。36年振りの出場と45年振りの甲子園での勝利だったことを知りました。
 2010年春。歴史が刻まれました。その瞬間に、この場にいられたことを心から嬉しく感じています。おめでとう。向陽野球部。そして応援の皆さん。
 嶋清一投手は伝説ですが、2010年春の向陽高校ナインも歴史を刻みました。いつか今日を振り返った時、あの時の向陽高校は高校生らしいチームだったなぁ。勝負だけが人生ではないことを教えてくれたと思い返すことでしょう。それは勝ち負けではない価値観があることです。開星高校監督のコメントへの批判から、学ぶことがありました。人は勝ち負けで評価されるものではないのです。その瞬間をチームメンバーと一緒に全力で戦うこと。
 それが自分の誇りであり、社会にとっても尊いことなのです。


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