760.トイレの花
 ちょっとしたことが話題になりました。ある会社のトイレのことです。この会社の二階のトイレがきれいで快適なのです。他の階のトイレと違う点はひとつだけあります。洗面所に花が飾られ、便器の上には可愛い人形が飾られていることです。 

 それだけなのにトイレ内のきれいさが違うのです。便器の周囲は清潔に保たれていますし、洗面所には水滴が零れていません。清潔なトイレのため、他の階から従業員さんが二階のトイレを使いに来る程になっています。  

 このトイレのことは私も気付いていたのですが他の皆さんも気付いていたので、トイレの話題に発展したのです。話をした数人で、二階のトイレを見学に行ったほどです。 
 不思議なもので、洗面所に花が飾られていると水滴を飛ばさないように気を付けて手を洗います。便器の上に可愛い人形が飾られていると、きれいに使おうと思うものです。少し飾りをしているだけでこの違いです。

 話あっていると、一体誰が飾ってくれているのか判明しました。事務所の清掃に入っている会社の二階の清掃を担当してくれている女性が毎朝、花を取り換えてくれていたのです。そして自己負担で人形を購入して飾ってくれていたのです。

 この心配りに感激すると共に感謝するばかりです。事務所の清掃が仕事だと思っていると、水洗いと拭き掃除だけで終わります。恐らく、この女性はトイレが汚れていることから、何とかしてきれいに使ってもらえないか考えたと思います。トイレがきれいに保たれると、快適で清潔な環境になります。きれいで快適な場所にいると、人は無意識のうちにそれを保とうとするようです。「汚れても良い」と思って使用する人は少数派だと思います。

 この清掃会社の女性は、仕事を超えた快適さを提供してくれるものですし、使う人の気持ちを柔らかくしてくれるものです。きれいな環境の中にいると人は優しくなります。荒んだ環境の中に毎日いると、心ない人になる危険性があります。どちらの環境が私達にとって好ましいものか比較するまでもありません。

 二階のトイレは自分の部屋のように見えるから不思議なものです。使用する多くの人が自分の部屋に入ったような気持ちになっているようです。それにしても、この女性の心の優しさを感じますし、使用する度に温かい気持ちになります。

 ある日、この事務所に本社から社長が来ることになりました。事務所で誇れるものは何かを話し合っている中で、「二階のトイレを社長に見てもらったら」とアイデアが出て来たのです。社長にトイレを見てもらいたい。本来であれば隠したい施設である筈のトイレが誇るべき施設だと思える従業員さんの心がきれいなのです。

 この女性が知らないところで、二階のトイレが話題になっています。仕事が評価されるとは、自分が誇らなくても使った人が仕事をした人の仕事を分かってくれることなのです。

 二階のトイレと他の階のトイレとの違いは、花と人形だけです。それだけでトイレの清潔さが全く違いますし、使用する人の気持ちも違うのです。
 素晴らしいプロの仕事だと思います。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ