717.コーチ
 コーチとは相手の能力を引き出す人のことで、今から前に進むためにはどうすれば良いかを気づかせてくれる人のことです。ですから「ああしろ、こうしろ」ではなくて、本人の中にある答えを導き出してくれる人のことなのです。
 本人はその問題を解決できる能力を秘めていますから、それを引き出せることをするのがコーチなのです。コーチの語源からそのことが分かります。コーチとは馬車のことで、大切な人をその人の望む場所まで送り届けることを示しています。

 しかしコーチは、選手よりも優れた実績がある必要はありません。コーチングはその人の選手時代の実績とは関係ないものなのです。例えばイチロー選手でもスランプ状態に陥ることがあります。普通に考えると現役で世界一の打者ですから、イチロー選手をコーチできる人は存在しない筈です。それでもイチロー選手にコーチができる人は存在しています。コーチの役割は、横から見て感じたことを選手に伝える役割を担っているのです。名コーチとは選手に自分の意見を押し付けるものではなくて、やりたいことをやらせてあげて、選手が気づかないところのアドバイスをする人なのです。

 同様にビジネスの世界でも昔の技術が通用しないことがあります。銀行の場合、昔はお客さんのところに行って、定期預金のお願いをして入れば良かったかも知れません。ところが現在の営業では定期預金だけではなく、投資信託や融資相談などの知識も必要です。

 現在の銀行幹部は若い頃に投資信託を扱った経験がないので、お客さんの反応を直接分かっていないのです。そんな幹部が営業の第一線で投資信託を扱っている部下に、お客さんが望んでいるような指示を下すことはできないのです。自分が投資信託を売った経験がないからです。
 それでも幹部ですから指示をする必要がありますが、未経験のことを指示することは難しいことです。そんな時は、お客さんが望んでいるものを一緒に考え、お客さんが成長する方法も一緒に考える姿勢を持ちたいものです。それが上司の役割であり、組織の中でのコーチとしての役割なのです。怒る、命令するばかりでは、人は、組織は動きません。

 指示ではなくて相手に興味を持っていることを示す、私があなたに関心があることを分かってもらうことがコーチングなのかも知れません。あなたのことに関心があるので、もっとあなたのことを教えて下さいと話し掛けることがコーチングです。

 そしてコーチの役割は相手に気付かせることですから、コーチと選手(部下)は信頼関係に基づく必要があります。コーチの視線は高い位置ではなくて同じ位置ですから、一声掛けから始まります。「おはよう」、「気分はどう」などの掛け声を、毎日行うことが信頼感の醸成につながり、広義ではコーチングになると思います。
 話している相手を気持ちよくさせる、やる気にさせることがコーチの役割です。そこから前に進むか現状に留まるかは本人の領域です。

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