ある市の首長がこう言いました。「市民の皆さんは全員挨拶をしてくれますよ」。それに対して、いくら市長でも芸能人ではありませんから、そんなことはないだろうと思って「それは本当ですか」と答えました。
皆さんはどう思いますか。市長と言っても、市内でそんなに顔が売れている筈はないと思いますよね。町中の人が挨拶をしてくれるなんて考えられないと思いますよね。
ですから「市長さん。全員が挨拶してくれるなんてことは、ないのではないですか」と聞き返したのです。
ところがその市長からの返答は次のようなものでした。「本当ですよ。その理由を話します」。「まず自分からおはようございます。こんにちは、の挨拶をするのです。そうしたら市民の皆さんは気持ち良く挨拶をしてくれるのですよ」。
なるほどと思いました。余程相手のことを嫌いだと思わない限り、こちらから挨拶をすれば相手も、おはよう、こんにちは、の挨拶を返してくれると思います。自分から先に挨拶をすると相手は挨拶を返してくれるものです。
しかしそれは当たり前のことのようですが当り前ではありません。自分から先に、今日出会う全ての人に挨拶をすることは容易ではないからです。それが出来ることが非凡なのです。全ての人が挨拶を交わすまちは想像しただけでも素晴らしい世界です。これがそのまちに活気をもたらせている要因のひとつです。自分から挨拶をすることで、相手は元気を取り戻し、その一言でコミュニケーションが図れます。
不思議なことに良いことは連鎖するものです。この話を聞いた翌日、和歌山市内のある公立小学校では、毎月一度「あいさつ運動」をしていると聞きました。順番制でその月の当番に当たっている生徒達は、他の生徒よりも先に学校に到着するようにしています。校門に立って登校する生徒全員に「おはようございます」の挨拶を行うのです。小学校四年生以上の中上級生が当番になるのですが、気持ちの良くなるあいさつ運動です。
多分、生徒は挨拶することの意味をはっきりとは分からないと思いますが、たった一言の挨拶が人間関係を潤滑にさせてくれます。知り合い同士でも、その日、最初に顔を合わせた時に挨拶を交わすものであり、その一瞬を逃すと言えなくなるから挨拶は不思議な言葉です。挨拶はその後に続く話の導入をスムーズにしてくれますし、信頼関係を確かめ合う役割も果たしてくれています。
この学校では、挨拶の大切さを将来のある時期に気付いてもらうために「あいさつ運動」を実施しているのです。卒業して新しい街に住むようになった時や社会人になった時に、近隣や先輩との関係を築くための挨拶である「おはようございます」の一言が効果を発揮してくれることに気付くことでしょう。
挨拶はまず自分から行うこと。その日の最初に行うことです。それを続けていると自分を取り巻く環境は変化します。自分が変われば世界が変わるのです。
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