595.活かす力
 平成20年5月に出席した会合で、主催者が話してくれた感動的な話を、私流で理解してその心を違う言葉をもって発信しました。そのことが主催者の知るところとなり私の言葉を読んで下さり、その結果、本当に有り難い言葉をいただきました。

 「みんなの前で話をしても、それを聞き流している人が大半です。良くても「うん、うん」と頷く程度か、良い話をしてくれているとその場で思う人が残りです。ところが他人の話で良いと思ったところを自分の中に取り込み消化し、それを活かすことの出きる人は余りいないのです。他人を活かす力とでも言うべき力は、自分の力になってくれるものです」
 他人の力を活かすこととは、他人が培ってきた人生の経験を良い意味でいただくことです。人は経験していないことを表現したり、他人に伝えることは難しいのです。自分で経験したことと同じくらいに、他人からいただいた経験を他の人に伝えることができたなら、世の中はもっともっと前進する筈です。

 自分の限られた人生において、自分の経験だけで物事の全てを判断することは危ないもので、他人の叡智や先人が残してくれた書物などを自分の中に取り入れながら、最終的には自分の価値で判断することで誤るリスクを軽減できますし、やってしまったことの後悔が少なくなります。
 ところが人は自分を中心に地球が廻っていると思うもので、他人の力を取り入れることを素直にしない傾向にあります。他人が自分よりも勝っていることを素直に受け入れられないからです。しかし、それも良しです。自分の与えられた社会の領域の範囲で生きていく限り、他人の経験はどれほど役立つか分からないからです。

 しかし大海に航海に出ようとすれば、先人や先輩の素晴らしい経験や困難に直面した経験、そして感動した話などは必要不可欠なものです。
 未だ挑戦段階にある人にとっては、人生という航海を照らす明かりを授かったようなものだからです。いつも道の傍に人生の先輩がいてくれる訳ではありませんから、授かった言葉や考え方は、少しでも自分のものとして取り込まなければなりません。取り込むためには、今度はどこかの場面において、自分の言葉と態度で表現する以外にないのです。それに人目に晒される実践の場面が必要です。
 人前で、自分が経験したことのない話を、自信を持って人に伝えようとすることは、強くて優しい気持ちと勇気、そして自分の言葉を必要とします。
 その経験を積むことで、他人の力が今度は自分の力となります。

 感動的な話や素晴らしい話に遭遇した時に、頷くだけで終わるのか、自分のものとして取り込み消化するのかで、その後に遭遇する人も事象も違ってきます。自分の力に他人の力を加えた良い人格の下には、良いストーリーが訪れてくれるのです。
 そこにはコップの中で争うような低次元の事件は起こりません。同じ人生なら、コップの何の嵐に対処するよりも、大海の嵐に挑戦する方が力を試すことができます。コップの中にいて嵐が過ぎ去っても、同じ光景の中に漂っているだけですが、大海の嵐の後には未だ見ぬ世界を発見することも可能です。
 他を活かす力を備えて、そんな人生の航海に挑戦したいものです。

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