東京都内で、和歌山市活性化対策のひとつとして、地域にクラシック音楽を取り入れる方法を検討しました。東京ではクラシック音楽の公演は日常的ですし、一流の奏者が来日しています。大阪や福岡で一流の奏者によるクラシック演奏会になると、チケットは数時間で完売となっています。
残念ながら和歌山県の音楽シーンでは、クラシック公演でそれだけ人気になった事例は聞いたことがありません。日本人でも西本智美さんの演奏会のチケットを入手することは困難ですし、毎年夏に開かれている長野県における小澤征爾さんの演奏会のチケットも、また入手は極めて困難です。話し合いの中に出てくる人の名前を聞くと、これらの演奏会に行く人も文化の香りがする文化人で、それらの会場は一流の雰囲気に包まれるそうです。それに触れるだけでも音楽を志している子ども達には良い影響を与えますし、世界の音楽を肌で感じる絶好の機会となります。
文化も東京だけではなく地方の都市にも分散させたいと、その可能性について話し合いました。例えば和歌山県内に公演前のキャンプを張ってもらいリハーサルを県内で行ってもらうだけでも素晴らしい効果があります。その効果とは、一流の演奏者を観たいと思う観光客に来てもらえますし、地元の音楽家にも好影響を与えてくれます。
音楽に精通した人からは、クラシックの本番を聴くよりもオーケストラのリハーサルを聴く方が楽しいと伺いました。その理由が凄いのです。指揮者の下に集まったオーケストラは、最初の段階では全く音が合わないのです。ところが5時間もするとぴったり合うようになるのが素晴らしいそうです。ある演奏会では、本番を翌日に控えた前日のリハーサルで全く音が合わなかったのに、夕方になると見事に息が合ったのを見て素晴らしいと思ったそうです。勿論、団員のTシャツは汗まみれになっていたらしいのですが。
ある方が、かつてボストンにいた頃、当時、毎年夏のボストンで小澤征爾さんが開催していたタングルウッド音楽祭、野外コンサートのオーケストラのリハーサルの場面に芝生で横になって聴いていたそうです。この満たされた時間を幸福と表現しないで、何と言えば良いのでしょう。人生の幸せとは物欲を満たすことではなく満たされた時間を持つこと、心が満たされた時間があることが幸せなのです。
仕事で忙しい時間も貴重な時間ですが、ボストンの芝生に寝転がって小澤征爾さんの本番に向けたリハーサルを聴くことは、人生の中の至福の時間です。小澤征爾さんが活動の拠点をウィーンに移してから、このボストンの野外コンサートは実施していません。その時だけの体験だったのです。
一流の演奏者の本番を聴くのは素晴らしいことですが、オーケストラのリハーサルを延々と聴ける体験も、また素晴らしいのです。そんな場所を和歌山県に設置できないものか、夢の描ける話は続いています。
幸福な時間をどれだけ持てているか。内面の所有物ですから自分だけが分かるものです。
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