536.信用創造
 2008年3月。日本銀行総裁が空白になりましたが、これは戦後初めてのことだそうです。日本銀行のトップが不在と言うのはどうしても不安定さがあります。地方に暮らす者としては、会社の社長がいない、学校の校長先生がいないと言う感覚でしょうか。白川副総裁が代行するため実務的には問題は生じないでしょうが、問題は信用です。トップが不在だと言うことは最終決断者がいないことです。そして日本銀行の場合、この信用が最も大事なことなのです。日本銀行の重要な役割はご存じのとおり、公定歩合政策、公開市場操作、予金準備率操作の金融政策です。いずれもわが国の経済を調整する役割を担っているもので、これらの政策の組み合わせで経済の安定を図っています。

 さてこれらの金融政策は重要ですが、個人的に思うのは、それらと同等かそれ以上に重要なものは信用創造です。これがないと日本銀行は機能しないのです。

 ところで小学生向けの新聞に「朝日小学生新聞」があり、この平成20年3月20日発行の新聞に「きのうのあしたは」の記事がありました。日本の歴史を紹介する記事で、後醍醐天皇の建武の新政の時のエピソードの中に紙幣の話がありました。朝廷にお金がなくて困ったことから紙のお金をつくろうとしたのです。国民は「紙切れで物が買えるものか」と怒り、紙幣の発行は失敗したそうなのです。当時、お金は貨幣そのものが価値を持っているから交換手段として流通していたのですから、そのものに価値のない紙切れを交換手段として流通させようとしても無理があったのです。しかし後醍醐天皇が日本で初めて紙幣を発行しようとした人物だったようなのです。

 ここに紙幣の秘密が隠されています。現代社会で暮らしている私達にとって紙幣の流通は当然のことで何の疑問もありませんが、紙幣が価値を持っているのは日本銀行が支えているからです。紙幣は紙切れですが価値を持っているのは国に信用があるからです。国が1万円紙幣には1万円相当の物と交換できる保障をしているから、私達は信用して労働の対価などで紙幣を受け取っているのです。

 もし国が不安定でクーデターなどで覆る危険性が潜んでいるとしたら、紙幣の流通は行われなくなります。国民は自分の国の紙幣を受けとらずに、例えばドルで労働対価の受け取りを希望するでしょうし、貿易相手国もその国の貨幣ではなくドルでの支払いを希望することになります。つまり国に信用があることが紙幣流通の大原則なのです。紙幣を発行出来る権限を国から付与されている日本銀行は国の信用力を背景にして紙幣を流通させているのです。

 つまり信用が紙幣に紙幣としての役割を与えているのです。銀行の役割で重要なことはこの信用創造です。銀行の資金力は実際に金庫にあるお金ではなく、預金残高などの名目の資金力で評価されています。銀行は金庫にお金を保管しておいてもお金を増やすことは出来ませんから、企業への貸付などを行っています。金庫に保管しているのは必要最小限のお金なのです。でも手持ち資金が少なくても、その何十倍以上の預金残高と貸付残高があるのです。そんなことが出来るのは信用創造が為せる技なのです。

 手持ちの資金以上に貸し借りが出来る銀行の機能を信用創造と言いますが、それが銀行の最大の強みであり役割なのです。日本銀行は銀行の銀行ですから、最大の信用を創造しているのです。信用創造こそが経済規模を維持し、拡大させているのです。
 信用創造している日本銀行の総裁が不在なのは信用問題ですから、好ましい状態ではありません。信用されるべき国や日本銀行の信頼が揺らいでいることは、金融の根幹を揺るがしていることなのです。
 金融界に人物がいない筈はありません。適切な日本銀行総裁の人事案を提案して、金融の信用を安定させて欲しいところです。

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