529.誰が一番
 40年も前の話だと思います。和歌山県人権施策推進審議会委員の村田穂積さんは、かつて関西大学で約4時間、硬式野球部に所属した経験があります。高校野球球児だった村田さんはプロを目指す程の自信を持って、関西大学の野球部テストを受けました。その時の合格枠は2人でした。

 テストは「あいうえお順」のため村田さんのゼッケンは27番。テストを受けるのは28人でしたから最後から二人目でした。投手だった村田さんは自信を持ってピッチングを披露しました。村田さんは投げ終わって、次の28番の投手のピッチングを見て驚きました。高校生とは思えないような速いボールを投げ込んでいるのです。28番の投手のボールをキャッチャーが受けられなかったのです。キャッチャーも交代して、同じくテストを受けていた新人が構えました。

 村田さんはこのバッテリーを見て、関西大学での野球を残念したのです。その時の28番の投手は、村山実投手、キャッチャーは上田利治捕手だったのです。村山投手は後の阪神タイガースのエースになり、上田捕手は現役引退後、阪急ブレーブスの監督になりチームを日本一に導いた名将となったのです。

 村田さんは野球に見切りをつけ、大学から大学院博士課程に進み、法学の勉強に12年間専念しました。そして商学博士として社会で活躍した経験を持ち、現役引退後に故郷和歌山県に戻って来ました。身につけた知識と社会経験を故郷の後輩に伝えるために戻って来てくれたのです。身につけたものは後輩に伝えることで継承出来ますが、大切に自分だけで持っていても誰かに伝えないと、その知識と技術はこの世から消え去ることになります。

 さて問題です。プロ野球会に名前を残した村山実さん、日本一の監督経験のある上田利治さん、そして商学博士として今なお活躍中の村田穂積さんの同級生の三人。一体誰が一番偉いのでしょうか。
 答え。人権の観点からすると、みんなそれぞれ違っているので優劣はつけられないが正解です。みんな活躍した分野が違いますから、誰の能力が優れているのか順番をつけることは出来ないのです。

 繰り返しになりますが、今もファンの記憶に生き続けている元阪神タイガースのエース村山実さん。阪急ブレーブスを日本一に導いた名将上田利治監督。そして商学博士であり「商業信用状」に関しての日本で唯一の研究者である村田穂積さん。誰の能力が優れているのか、比較することすらおかしいことなのです。

 人はそれぞれ能力が違うのですから、得意な分野で一番になれば良いのです。自分の得意分野を高めていくための長い人生は、誰とも比較出来るものではありません。最初は同じようなものであっても、長い人生の過程において人の能力を発揮するそれぞれの分野に枝分かれしていき、それぞれの人生の一番になるのです。そこには比較や優劣はありません。

 受験での競い合いや競技での優勝争いなど、人生において短期的には勝負は大切ですが、
 最後には、人は支え合って生きていることに気付きます。それぞれ違う能力を組み合わせて協力し合う方がより大きな成果が得られるからです。自分の能力を高める努力の継続と、自分で出来ることを行うことに価値があるのです。

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