528.実話
 人権の大切さを感じさせてくれる昭和41年の実話があります。
 昭和41年、白血病に侵されて余命50日と宣告された女子高生がいました。抗がん治療を続けていたため髪の毛は全て抜け落ちていました。この生徒の同級生達は、友達との最後の思い出を作ろうと九州への旅行を計画しました。女子高生は髪の毛がない姿を同級生に見せたくないと思っていますから、参加を拒否し続けます。しかし担任の先生の熱意によって参加することになりました。

 体調面から同級生よりも少し早く先生と一緒に九州入りして宿舎に入ったのです。後は同級生の到着を待つばかりになった夜、女子高生は「やっぱりみんなと会いたくない」と言い出しました。髪の毛のない姿を見せたくないと思い始めたからです。この決意は固く、どれだけ先生が誠心誠意話しても全く受け入れてくれませんでした。夜に同級生とは会わないばかりか、翌朝一人で帰ると決心したのです。

 策の尽きた先生は、女子高生の同級生達を集めて言いました。「もうどうしようもない。残念だけどあきらめよう」と話したのです。先生は部屋に戻りました。
 翌朝、先生が生徒達の部屋に入った時、その部屋の異様な光景に驚きました。男子生徒だけではなく女子生徒も全員、頭の毛を剃って坊主にしていたのです。実は昨夜、先生が生徒達の部屋を出て行った後に、自分たちで何が出来るかの話し合いを続けていたのです。

 その結果、友達だったら白血病の女子生徒と同じ立場になろうと決定し、朝までに頭を丸めたのです。先生は、白血病の女子生徒の部屋に行って、嫌がる女子生徒を無理に同級生の部屋に連れて行ったのです。髪の毛のない同級生達を見た女子生徒は、泣き崩れてしまいました。同級生の真の気持ちが伝わり、本当の友達であることを理解したのです。姿ではなく気持ちがつながっていることの素晴らしさを心で感じ取ったのです。

 その日は全員で九州の楽しい思い出を作ることが出来ました。
 そして40日後、白血病の女子生徒はこの世を去りました。同級生達との思い出を抱えながら。わずか17歳の人生でしたが、最後の同級生達の真の友情に触れ、短いけれども友を信じられる充実した人生だったと言い残したそうです。

 それから40年余が経過しています。60歳を迎えようとしている同級生達の心には、17歳の女子生徒が存在しています。体は遠い過去に消え去っていますが、心ではいまでもつながっているのです。長い短いの期間ではなく、瞬間であっても充実した時間は心に残るものなのです。

 これが白血病の女子生徒の心を救った同級生の物語です。
 あれこれ考えているだけでは、相手に何も通じませんし何も起こりません。一歩を踏み出すこと、一言声を掛けることが自分の気持ちが相手に通じるのです。朝の「おはよう」の挨拶が、接する相手を元気にするのです。朝の掃除が、道行く人の気持ちを晴れやかにするのです。

 思っているだけで相手を幸せにすることは出来ません。幸せを創るのは考えや思うことではなく言葉と行動なのです。どれだけ素晴らしい企画を考えても実行しなければ何の変化も起こりません。それよりも簡単な朝の一言の挨拶の方が、相手と周囲、そして自分に変化を起こさせてくれます。大それたことではなくて自分で出来ることを行動に移すことが大切なことなのです。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ