まちの元気が人を元気にしてくれる。まちが持っている空気はとても大切です。世田谷区のものづくり学校には多くの芸術家やベンチャー企業が入居しています。クリエイティブな仕事している人が集まるとそこから新たな仕事や取り組みが始まります。陶芸家と映画関係者、ジーンズを作っている人やコマーシャルディレクターが集い、技術とノウハウを組み合わせることで新しい何かを創出しています。
同じ業種の人が集うのではなく、違う業種の人が集うことで何かを生み出す空気を醸成しているのです。場の空気を表現することは難しいのですが、世田谷区ものづくり学校では活気ある空気が漂っています。
まちの空気が人にとって大切なことを示す文章がありますので引用します。
「19世紀後半から20世紀前半のパリの街は、街全体に一種の芸術的な雰囲気が漂っていました。そこは芸術家たちが集う一つのサロンのようでした。フランス国内だけではなく世界各地から、ピカソ、シャガール、ヘミングウェイ、作曲家のストラヴィンスキー、シャネルなど、あらゆるジャンルの天才たちが集まっています。しかも彼らの多くは、まさにとっかえひっかえと言えるほど次々と相手を変えてつき合い、「当時のパリはどうなっていの?」というほど華やかな雰囲気でした。
とにかくそこでは一人一人で仕事をするというのではなく、その熱気の中で場の力を利用してみんなで仕事をしているようなものだったのです」(*1)
しかもまちの空気が大切なことを示す事例が記されています。服飾デザインのココ・シャネルは一時期パリを離れてイギリスで暮らしています。しかし服を作ろうとしてもイギリスでは作れなかったのです。
「やはりパリのような、芸術家連中とのつき合いのような熱気がないとつくれないのです。(シャネルは)いろいろな人にもまれ刺激を受けながら、いつも現在進行形で服をつくっていたのです。シャネルは、パリという街が持っているパワーをフルに活用」(*2)したのです。
今も昔も人が創造的な仕事をするためには、他人と周囲からの刺激と活気溢れたまちの空気が必要なのです。世界を見渡すと、芸術家のまち、音楽のまち、ベンチャー企業家を輩出しているまち、金融のまちなど色々な街が存在しています。自然発生的なものでも偶然でもなく、まちの空気に呼応して人は集まり、集まった人が又まちの活気ある空気を生み出しているのです。
世田谷区ものづくり大学や19世紀末から20世紀前半にかけてのパリ、20世紀末から続くシリコンバレーから起業家を輩出している例などは良い連鎖を示しているものです。
対極的に保守的、変化を嫌う、伸びゆく若い人を育てないなどの空気があるまちからは創造的なものは誕生しませんし、他都市からは勿論、地元からも人は集いません。
それ程、まちの空気は大切なものです。そしてまちの空気を作っているのは、他でもないそのまちに暮らしている私達なのです。他人を責めるのではなく、せめて自分の周囲からだけでも良い空気を漂わせたいものです。
*1と*2の出典『天才の読み方』斉藤孝、大和書房
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