264.体感温度
 市議会で一般質問項目が決定すると、市内の皆さんからいつも熱心で貴重な意見をいただきます。まちづくりを質問テーマにするとまちづくりに取り組んでいる皆さんから、英語力向上をテーマにすると留学経験のある方や英語教育に取り組んでいる皆さんから、それぞれ提言をいただけます。本当にありがたくて嬉しいことで感謝する次第です。
 自らの経験と実践に基づいた熱い思いを言葉に託して伝えてくれます。自らの力だけでも生きていける方達が、地域が健全に発展するために建設的な意見をくれるのです。事業者と厳しい時代を過ごし自立している皆さんが、このままでは地方の活力が益々失われ、地方から人材を輩出することが出来なくなってしまうと危惧しているからです。
 
 これに対して地方自治体の反応は鈍いものがあります。組織が大きいことや万人に公平性を保つことが施策の前提となっていることから、より慎重で安全に物事を進めるのは理解出来ますが、現代の激しい社会変化に対応するには辛い組織かも知れません。
 自分は何の得にもならないのに、市政に関して提言してくれる皆さんからの熱い思いを受け止めるだけの組織の度量が欲しいと切に感じています。一般質問に対して一般的な答えは用意してくれますが、現状を維持するだけが精一杯で一歩踏み出してくれないのです。

 この温度差は一体どうなっているのでしょうか。
 温度差の理由は、自分のお金で事業を行っているか否かの違いです。事業者は事業や商品を通じて、他人に幸せを付与したり知識を提供しています。その対価としてお金を得ています。お客さんが商品に満足を感じなかったりサービスに不満があれば、次は顧客になってくれません。そのため事業者は、どうすればお客さんに満足を提供出来るのかを考え、お客さんの要望に即座に対応します。お客さんは満足を得られて初めてお金を支払ってくれますから、それで事業者は儲けることが出来ます。

 商品やサービスが顧客に評価され、その評価によって報酬が異なります。商品やサービスの裏側には、知識と経験、アイデアや熱意が折り込まれています。つまり顧客は自分で作り出せない商品やサービスを購入することで、事業者が持つ経験や知識をショートカットして得ているのです。周囲にあるものを自分で作ろうとすれば、知識と技術を習得するための多大の時間と多くのコストを要します。
 商品やサービスを購入するのは、自分で考え動くよりも早くて便利だからです。

 ところが行政サービス提供者は、サービスレベルに応じて得られる報酬が左右されにくいのです。利用者の要望に応えられなくても、利用者には他の選択肢はありませんから不満を感じても利用する他ないのです。行政サービスは事業者が考えて実現させた事業ではなくて、多くの人がお互いに必要と考えたサービスを国や地方自治体に実現を委ねているものです。道路をつけてもらったり、福祉サービスを受けられるようにしているのはその表れです。そのための費用は私達が税金として支出しているのです。
 行政サービス提供者は、直接利用者からお金をもらっていませんし、個々の要望に応える必要もありません。国民が必要と選択している最大公約数の行政サ―ビスの要望に応えることが使命なのです。そのため利用者からお金をいただくこともなく、個々の要望に応えなくても行政にいると報酬を得られるのです。

 また自らの意思で仕事やしくみを改善するのは困難で、行政サービスの執行機関として受動的な立場にあるため事業を実施している感覚が乏しくなります。これは職員が悪いのではなく制度上から来るものです。

 この温度差が熱意の差を生み出しているようです。市議会の一般質問は、巨大な夜の海に熱(意)を送り込んでいるような感じがあり、熱せられているのか何も変わっていないのか分からなくなります。ただ背景には声援を送ってくれている皆さんがいて、熱い思いを託してくれている皆さんがいますから、せめて体感温度が上がるように言葉に意味を込めて訴えます。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ