235.小さな変化
 平成17年8月のヘルシンキ世界陸上選手権男子400mハードルで銅メダルを獲得した為末大選手。為末大選手は4年前のカナダ・エドモントンの世界陸上選手権でも銅メダルを獲得しているなど陸上界の第一人者です。

 日本でスポーツ選手は政治、経済問題に関心がなくても問題はありませんが、海外で試合を行った後には海外のマスコミは試合の感想だけのインタビューに終わりません。最近の事例では「日中問題についてどう考えるのか」「アスリートとしてスマトラ沖地震の支援についてどう考えているのか。具体的なアクションを起こす予定はあるのか」という質問が飛んできます。答えに窮することがあるのですが、アメリカやフランスの選手はスラスラと受け答えをしています。世界レベルになると、アスリートでも自分の専門分野以外に社会的問題に関心を持っておくことが必要です。
 アメリカ的考え方では、自分が課題についての方向性を判断した後に、周囲を納得させる方策を考えます。自分のやりたいことが中心にあって、それを実現させるために周囲との関係を作っていきます。

 一方日本的考え方は、世間の様子を見てから情勢を伺い、それに基づいて自分の考えを決めようとするものです。自分の人生においても主体は世間です。
 分岐点では進むべき方向を自分で決めることです。自分が選択した道ですから苦しいことがあっても我慢出来ますし耐えられます。ところが他人の意見に左右されて決定した場合は困難に遭遇すると他人の性にします。いつまでも他人に影響される生き方は止めたいものです。

 為末大選手が陸上でも困難な400mハードルを競技人生として選んだのは、研究し作戦を立てることで体力に勝る外国の選手に対抗出来るからです。100mの世界で海外選手と対抗していくのはかなりの困難が伴います。頭で勝負できる競技が400mハードルなのです。
 為末大選手が世界トップレベルを保てるのは、能力の100パーセント全てを陸上に専念しているからです。通常の人はやりたいことがあっても能力の30パーセントを好きなことに割いている程度です。全てを競技にかけていることがレベルを引き上げている要因です。
 その証拠として、中学生時代に一番走るのが速かった選手がオリンピック代表に選ばれていない事実が語っています。どの競技でも中学生時代にその競技で一番になった選手はいなくて、速く走ることを追求した結果として大学生になってから頭角を現した選手がオリンピック代表まで上り詰めています。努力は才能に勝ることを示しています。

 為末大選手の小学校では、当時、卒業する時に10年後に開けることを目的としたタイムカプセルを埋めたそうです。そこに収められたのは将来の夢を書いた紙だけでした。10年後、タイムカプセルを開いた時、結果が明らかになりました。約400人いた同年卒業の小学生達ですが、描いた夢を実現させていたのは為末大選手ただ一人でした。陸上選手になるという具体的目標を持って努力した結果が現れています。真剣な目標があると人は頑張れるのです。

 さて為末大選手がプロ陸上選手になったのはこの体験に起因しています。それは400人いた中から10年後に夢を実現させているのはたった一人だけでした。一人だけ夢を実現させたのだから止めたらもったいない、400人分の夢を背負って生きてみようと思っての決断でした。

 夢は出来るだけ大きく持たないといけません。ソウルオリンピックで金メダルを獲得した水泳の鈴木大地選手は、小さい頃にオリンピックで金メダルをひとつ獲得すると目標を定めたそうです。目標を持ったことで夢は実現しました。しかしオリンピックの金メダルを獲得した時点で燃え尽きてしまい、次の金メダルを目指すためのモチベーションは持てなかったそうです。目標をオリンピックでふたつの金メダルを獲得すると決めていたら違った結果になっていたかも知れないと話しています。それ程夢に基づいた目標を持つことが大切なのです。

 目標を達成するために持続する秘訣は小さな変化をつけることです。練習での腕の振りに変化をつける、トラックを逆に走ってみるなど少しの変化を持たせることが長続きするコツです。もうひとつ、悔しい感情を持つことが思いを持続させることにつながります。

 そして決断には瞬発力が必要です。時間をかけてデータを集めてゆっくりとする決断はありません。見た瞬間に決められることが決断の瞬発力です。決断するのに時間をかけると迷いが生じますから決断出来なくなります。レストランでメニューを決める時など、小さな決断をする訓練をすることで決断力が身につきます。 
 一流のアスリートの考え方に触れること、これも日常生活における小さな変化です。

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