177.お役所仕事
 いまは余り使いませんが「お役所仕事」なる用語がありました。今では行政機関は自治体経営の必要性に迫られ民間企業を見習う姿勢を持っています。死語に近い用語を思い出させるような出来事を聞きました。
 ある地方自治体では、高齢者向けの行政サービスとして、一人暮らしの高齢者が希望すれば弁当を配達しています。財政的余裕があり、気持ちがこもっていれば素晴らしい行政サービスです。では福祉を担当する部門の職員意識はどうなのでしょうか。
 弁当の配達は民間に委託していますから、食飯会社が当該の高齢者に配達しています。一見すると問題はないようですが、実は問題が潜んでいます。福祉担当課は同一の食飯会社に委託を続けていて入札を行なっていませんでした。仕事内容を知っている食飯会社に任せるほうが説明の手間を省けますし、担当者が変わっても食飯会社がノウハウを持っているので変更出来なくなっているのです。
 しかも福祉担当課は伺い書を作成し、執行権限者まで決裁伺いを立てているだけですから机上だけの仕事となっています。全く現場を知らないで仕事を行なっているのです。
 高齢者に弁当の味を確認するためにお宅を訪問すれば、この施策に関する意見や要望も聞けますし、担当者にやる気があれば行政施策全般についての意見を聞き改善に役立てることも可能です。
 表面的には仕事は上手く流れていますが、気持ちが込められた仕事になっていません。
形式的に伺い書を立案し決裁者の印鑑を受けていますから、議会や監査からの指摘を受けることはありません。その机上の仕事と全く次元の違うところで現場の仕事が行なわれている上、市民であるこの行政サービスを希望する高齢者の、この施策に対する意見が行政内部に届く事はありません。
 行政内部の決裁業務と職飯会社と高齢者の間で動いている仕事は、別のループを描いています。意見交換の機会がなく、改善されることも必要性が検討されることもない状態に放置されています。
 行政サービスのあり方、コスト意識、改善意欲が見られない、正にお役所仕事の典型のような事例です。行政改革の時代にこのような仕事振りに遭遇するとは思ってもいませんでした。
 ただ救いはあります。この仕事のやり方に対して、今春新しく赴任した所属長は仕事の改善を指示したのです。具体的には、一社だけの随契ではなく入札にすること、弁当配達の行政サービスを受けている高齢者宅を訪問して食事の味やサービス内容を聞いてくることを指示しています。意識の持ち方をほんの少し変えるだけで仕事内容は変わります。

 もうひとつの事例です。市町村合併に伴い、両方の行政サービスの水準を統一する必要があります。同一行政区になりますから、旧行政区の格差を無くすための作業が進行しています。平成の大合併により合併するある市と町は、福祉施策を受ける場合の市民負担額を100円高い方に合わせる事にしました。理由は、市民負担額は100円高くなっても受けられる行政サービスレベルが高いため、今後高齢化が予想される市民への福祉行政の必要性を考えると、負担額が増えても内容を高い水準に合わせるのが主旨です。
 この案件に対して担当者は、負担額を100円引き上げる理由を次のように記載したのです。「市町合併により負担額の格差が生じたので、負担が低い市の負担額を100円引き上げるものとする」。なるほど筋道はその通りかも知れませんが、気持ちの通った仕事になっていません。
 厳しい経済情勢下、私達は100円でも節約をしようと市民生活を営んでいます。身分が安定した公務員意識に基づくこの仕事振りと意識は、私達の意識と行動を逆撫でするものです。100円負担が多くなるのは、近い将来高齢化する市の福祉サービスを向上させるためですとすれば理解は得られ易くなります。
 現場感覚とかけ離れたお役所仕事から、自治体経営を前提として現場の意見を大切にするのがお役所仕事と呼ばれるようにしたいものです。

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