160.デザインの力
 和歌山市においてはデザインやウェブデザインなど、商品として形に現れないものに対して価値(値段)をつけてくれない傾向があります。適切な表現でないかも知れませんが、カップという物体にはお金を支払いますが、カップのデザインにはお金を支払わないという感覚です。
 物体は作るのにお金がかかっていますから、材料に対する費用は必要と見る訳です。ところが、例えばカップを100個購入するからデザイン料はただ(無料)で納品を依頼するようなものです。ですからデザインをデザイナーに仕事として依頼するのではなく、製品の発注を受けた企業内でデザインを行なうことになります。

 若い才能が仕事を通じて伸びる土壌が小さいのが心配です。今や、製品の価値を高めるのは材料の良し悪しではなくデザインの出来不出来です。材料費に付加価値をつけても限界がありますから、利幅は一定額以上増えません。しかしデザインの付加価値は無限大ですから、100円のものがデザイン次第で1万円でも販売することが可能です。

 和歌山市は製造業が主体の産業構造です。地場産業は地域が育んだものですから大切にするのは当然です。しかしそれだけで県内総生産を高めることは出来ません。製品に出来るだけ付加価値をつけて販売することで生産高は高くなりますから、ソフト分野に才能のある若い人に来てもらうことが第一歩です。
 ある地場製品の原価が1,000円で工場内の定型的なデザインを施して市場に出荷した価格が3,000円だとします。それに対して原価1,000円の製品に、才能があり市場から評価されているデザイナーにデザインをしてもらって市場に出すと10,000円で販売することも可能です。前者が2,000円の価値を生み出したのに対して、後者の場合は9,000円の価値を生み出したことになります。デザインを変えるだけで、同じ原材料なのに生産高は違ってきます。

 和歌山市には優れた地場産業がありますから、優れたデザイナーを育てることによりソフト価値を付加した製品として仕上げることで伸びる余地があります。
 ところが残念なことに、和歌山市の域内経済が芳しくない状態が続いているため、見えない部分であるソフトにかける費用が削られています。形がないので削っても影響が小さいと考えているからです。実はそれだけ市場価値の小さいものを世に送り出しているので、域内経済は縮小に向かい、和歌山市の製品は機能的であっても市場から評価されなくなります。
 これは残念なことです。地場産業がなければ仕方ありませんが、優れた素材があるのですから、後はソフトの価値を認めるだけで市場価値は飛躍的に大きくなります。

 ブランド化を図ると言われます。これは、価値を認められるために贅沢な作りで価格の高い製品を送り出すのではなく、使い勝手が良くデザイン性の高いものを市場に送り出し、ユーザーから価値を認められることがブランド化です。
 和歌山発の製品のセンスが良いと認められたら市場価値が高まり、自然に高い価格で取引されることになります。ソフトの価値を認めることがブランド化の第一歩ですが、その前段としてデザイナーが活躍出来る市場を作り出すことが必要です。和歌山市に行けばデザインの仕事があるから行って見ようと思わせるまちを目指したいものです。

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