東北大学の川島隆太先生は脳化学の第一人者ですが、幸運なことに話を伺う機会がありました。
人間が他の動物と異なるのは、脳の前に位置する前頭前野が発達していることです。前頭前野は思考、行動・情動の制御、他者とのコミュニケーション、意欲、集中力、自発性、身辺自立の役割を担っています。全てが人として社会生活を送るために大切な能力です。
脳研究が進んだ現在、脳に関して誤った認識を持っていることが分かっています。年齢を重ねると感情が豊かになり涙もろくなると言われています。若い頃はドラマを見ても平気だったのに、年齢を重ねたらテレビドラマを見ても涙が出てくることがあります。これは感受性が豊かになったのではなく、情動の抑制をする前頭前野の機能が低下しているからです。
指を使うとボケ防止になると言われていますが、指先を使っても脳は活性化しません。10年前まではそう信じられていましたが、その根拠はサルを使った実験の結果によるものです。人間には通用しない論理なのですが、勉強のしていない人達は未だにそれを信じて話しています。このように脳に関して誤った知識があります。
脳の研究が進んだ今では、何が考える力をつけるために効果があるのかが分かっています。テレビゲームをしてもテレビを見ても前頭前野は鍛えられません。それよりも単純な足し算や引き算をするのが最も効果があります。複雑な計算をするよりも単純な計算を行う方が脳を鍛えられます。
小学生と大人には、足し算や引き算が効果的です。中学生や高校生になると受験がありますから、計算問題のレベルを上げる必要があります。いずれも復習が大切だと言うことです。復習を実施しながら新しい学習をする、その繰り返しです。復習を行うことで学んだことを覚えるくらいに単純化出来ます。単純化した計算問題を集中して素早く、繰り返し行うことで脳が鍛えられます。難しいと感じる計算問題をどれだけ考えても脳は働きません。
また記憶する方法として、読んで覚えるよりも書いて覚える方が脳全体を活用するので記憶として定着します。読んで覚えても前頭前野を使っていないので知識として頭に入るだけです。書いて覚えると前頭前野を使ったものになるので、入った知識を応用することが出来ます。知識としてだけ活用するのと、インプットした知識を基に応用する力があるのとでは全く価値は異なります。応用力とは創造力ですから、過去の知識から新しいものを生み出す可能性があります。
小さい頃、書かないと覚えないと教えられたことがあります。面倒で時間がかかりますが、繰り返して書くと確かに覚えられました。大人になると書くことが少なくなる、このことが覚えられない原因なのかもしれません。
書くことに加えて本を読むことは大切なことです。一ヶ月に5冊、本を読んでいる高齢者の脳はみずみずしくて若い人の脳と変わりません。読み書き計算が脳を鍛えるのに最適であり、これ以外に鍛える方法はありません。
最近の子どもは本を読まないから脳を鍛えられないと言います。その通りですが、原因は大人にあります。大人がテレビを見て笑っているのに、子どもに本を読めと言っても読みません。まず大人が本を読むことで、自然に子どもは本を読むようになります。
子どもが本を読んでいたら、何かしていても聞いてあげる、そして褒めてあげることです。何よりも子どもと会話をすることが脳のトレーニングになっていますから、家族のコミュニケーションを大切にすることです。
前頭前野を鍛える方法には次のようなものです。読み書き計算、他者とのコミュニケーション、集団での遊び、手指を使って何かを作り出すこと(料理や手芸、はさみで紙を切って何かを作ること)楽器演奏、独唱などが効果的です。
逆に前頭前野の働きを抑制する方法は次のようなものです。テレビゲーム、テレビを見る、漫画を読む、パソコン、携帯電話のメール、マッサージ系のいやしなどです。これらをどれだけ速く実行出来ても脳は鍛えられません。
問題は両者の使い分けをすることです。頭を鍛える訓権をした後にご褒美として漫画を読めば良いのです。
考える力をつけるには学んだことを復習することで単純化し、素早く繰り返して問題を解くことです。そして常に新しい知識を身につけることも大切です。脳を鍛えるのは自分だけが良くなるのではなく、自分が身につけたものを社会で活かすことが目的です。社会での存在場所を見出すためにも目的を持つ必要があります。
|