129.人間再生
 東洋医学のひとつである指圧は浪越徳治郎さんが生みと育ての親です。浪越さんの母親がリウマチで苦しむため、子どもながらに母親の体の痛みをほぐすために、さすったりもんだりしていました。そうしている内に指で圧すと痛みが抑えられることが出来たため、浪越さんは指圧と命名し、病気に苦しむ人のために役立てました。その後1940年に日本指圧専門学校を設立していますが、これが日本唯一、指圧を学べる学校です。
 浪越さんが指圧で病気の人を治しているのを知り福岡から上京、学校が設立する前に弟子入りした人が和歌山市にいます。その技術を身につけて病気で苦しんでいる人を助けたいという気持ちがあったからです。その後日本指圧専門学校で学び、首都圏で指圧を施していました。 
 ところが60歳を機に、心機一転それまで住んだことのない和歌山市に移転しました。福岡生まれで東京や千葉で仕事をしていたのに和歌山市にやってきたのです。顧客のある地域にいれば技術があるため安定した生活を約束されていたのですが、知っている人が少ない和歌山市で人生の仕上げをしたいと思ってやって来たのです。
 和歌山市はよみがえりの地であることから、指圧によりここに住む人に健全な心身を与えたいと願ってのものでした。人間研究、人間再生を目指して予防医学を普及させるために活動しています。

 高野・熊野が世界文化遺産になった頃に和歌山で活動を開始したことも何かの因果がありそうです。熊野は身分や地位、貴賎や性別は全く関係なく人々を受け入れてきた懐の深い地です。単なる観光地として観光客を集客するのではなく、歴史的事実に基づく精神文化を伝え感じ取ってもらうことで奥深さを理解してもらうことに価値があります。熊野の観光ブームが一過性に終わるのか、リピート性を持つことが出来るのかは、方向性をどこに定めるかで明暗を分けます。今年の取り組みが重要ですが、予防医学を取り入れることでよみがえりの地としての価値を持たせることも可能です。

 そこで指圧とは、人間の本来持っている回復機能を最大限に活かそうとするものです。人間には、傷つけられても病気になっても自然に回復する機能が備わっていますから、悪いところを施術などで切り取るのではなくて、自然治癒力を高めるためのお手伝いをするものです。
 心身は結びついていますから、体を良くすれば病んだ心も回復するのです。怪我の場合、程度にもよりますが、大きな怪我でも三ヶ月あれば回復させることが可能だと言いますから驚きです。精神状態も良くしますから、社会的ひきこもりや不登校から脱却させるためにも効果があります。

 希望をもたないと生き甲斐は生まれませんし、そんな状況で生きていて良かったとは思えないのです。私達が生きているのは、苦しい顔や難しい顔をするためではありません。生きていることが幸せだと思うことが生きている意味です。健康を維持し希望を持って何かに取り組むことが生きることの意味です。他に大切なものがありますか。
 人間は良いことをしても、つらいだとか苦しいだとか思うと心が病んできます。つらいと思うと天は喜んでくれません。人間が本心で正しいと思ったことを行えば、人間が後からつけるような理屈は関係なく良い見返りが現れます。そのためには素直さが一番です。
 親孝行と素直さを持っていること、これは人が伸びる要素です。人格形成につながるものは全てつながっています。健全な考え方の持ち主は体も健康ですし、体の一部分や精神を痛めても回復力は強いのです。素直でない人の治癒力は遅いですし、人間としての成長度合いも遅くなります。

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