人に感動を与えること、感動させられることが多いほど自分の人生が豊かになります。人のために何かをすることの素晴らしかった出来事があります。
1999年、ジャパンエキスポ南紀熊野体験博がありました。博覧会期間中の7月17日と18日の2日間、海外特派員協会のジャーナリスト9名を東京から博覧会に迎えました。2日間、案内してくれたのが観光バス会社のドライバー宮崎さんとガイドの平野さんでした。
　特派員は英語だけで日本語は話せずない上、全員、東京在住で和歌山県に来たのは初めてでした。ガイドさんは英語を話せません。しかし臆することなく、初対面からバスの中で必死になって、しかも明るく心を込めて南紀熊野の説明をしてくれました。最初、車中はぎこちなかったのですが、ガイドさんが必死になって和歌山の良さを伝えようとする態度、暖かく迎えようとする気持ち、何かを伝えようとする心意気が、参加した私達の心を動かしました。最初、バスに乗車したときに「お帰りなさい」と声をかけ、それに対して「ただいま」と返すことを特派員に教えていました。
　特派員は日本語が分からないため小さな声で反応していましたが、そんな時、平野さんは何度も「お帰りなさい」と大きな声で言いました。序々にバスに「ただいま」の声が大きく聞こえ始めました。
　日本人なら照れるところですが、特派員は照れることはありませんでした。言葉を覚えたばかりの子どものように大きな声で答えたのです。次第に車中のムードは良くなっていきました。

　2日目、同じ挨拶でツアーが始まりました。英語教室のように一つひとつの単語を日本語と英語で繰り返しながら説明することで、一段と連帯が深まっていきました。そして、平安時代の衣装に着替えての熊野本宮大社までの約４０分の時代行列と式典がクライマックスでした。慣れない時代衣装ですが、楽しんで歩いている彼ら、刀を振りかざして喜んでいる特派員、本当に楽しい瞬間でした。
2日目の行程も終盤に近づいた夕方の６時頃、特派員一行は東京へ帰るためバスは南紀白浜空港へ向かいました。明らかにバスのメンバーはひとつの家族になっていました。もう少しだけでもいいから一緒にいたいと全ての人は思ったのです。

　最後にガイドさんが「お帰りなさい」とお礼の挨拶をしました。特派員は「ただいま」と躊躇なく答えました。続けて「一体この言葉を何回言ったのでしょうか。いよいよお別れの時が近づいてきました。あっという間の2日間でした。皆様方とだったら1泊2日は短すぎます。2泊3日でも4泊でも一週間でも一ヶ月でも一緒にいたいと思います。私がもっと英語が出来たなら、もっとたくさんの事が伝えられたのに、たくさんの話も出来て理解し合えたのにと思います。きっともう一度和歌山へ来て下さい。もっと色んな所を案内できると思います。お別れに私が初めて覚えた歌を歌います。海は広いな大きいな、月は沈むし日は昇ぼる。海にお船を浮かばせて、行ってみたいなよその国」
　これは童謡の「海」という歌ですが、メンバーも一緒になって歌いました。最後には、ガイドさんは涙で歌えなくなりました。全員そうでした。昨日会ったばかりの相手のことを思って、しかも海外からのお客さんだから今度いつ会えるか分からないので一生懸命にやった結果が最後の涙になったのです。本当にすてきな瞬間でした。バスを降りてから握手で別れたのですが、ひょっとしたら二度と会えないかも知れないのです。

　続いて挨拶をしたドライバーさんも涙声で「たいした運転手でなくて十分満足してもらえたかどうか分からず申し訳ありませんでした。でも和歌山の良さを知ってもらおうと一生懸命案内したし、是非いつか和歌山へ来て下さい」これも心のこもった挨拶でした。
　この2日間は単なる博覧会ツアーではありませんでした。それは博覧会が開催されたからの出会いであり、演出してくれたドライバーとガイドさんがいなかったら、たまたま一緒になっただけのメンバーだったかも知りなかったのです。
　この2日間はプレスツアーではなく、ガイドさん達が与えてくれた素晴らしく流れた時間でした。
　
　とても重要な教訓を示してくれます。
　一生懸命相手のことを考えると、その気持ちは行動や態度に出てきます。気持ちは必ず相手に伝わり相手を感動させます。そして感動という素晴らしい時間を相手にプレゼントすることになり、自分も同じく感動する時間を持つことができます。　
　相手に感動を与えると自分も感動するし、その体験は自分の人生を大きくしてくれます。素晴らしい感動は別れた後も余韻が残ります。この体験の後、空港から帰路に着く車の中はとても気持ちが良かったし、部屋に帰った夜も感動は残こり、とても素晴らしい時間を持つことが出来たのです。
　感動を与えられた方は気持ちが良いし、与えた方は満足感があります。少しでもすてきな出会いをしたいし感動を人に与えたいものです。
　感動体験はすてきな時間であり人を大きく成長させてくれます。