まず情報の定義が必要ですが、認知された定義はありません。一般的には、情報とは、素材としてのデータ、データが加工されて何にかの状況で役立つようになったものを指します。情報を英単語に当てはめるとインフォメーション(Information)となります。
情報は、現場の状況や、動いている変化している状態にあるもの、多くの人の意見などを取り込み、文字化などを施して加工します。つまり、生きているものを文字に変換したものに過ぎないのです。もっと言えば、過去の記録にすぎず、これからに余り役立たないものです。
情報だけで判断することは危ない、現場を見ないと駄目だという根拠はここにあります。
情報公開は必要ですが、単に数値の列記や経緯を示すだけでは、市民にとってそれ程価値はありません。
では、情報公開は必要ないのか。いいえ、必要です。役立つ情報を公開する必要があります。市民が使えるような役立つ情報とは何でしょうか。これはインテリジェンス(Intelligence)です。
これは、データを体系的に仕上げ、知識を付加したものです。これが役立つ情報です。FBIのIはインフォメーションではなくインテリジェンスの意味はここにあります。
ですから、情報公開するのは過去の統計や数値、財務諸表だけではなく、その統計を和歌山市は、どう評価している、それを活かしてこんな町づくりを目指している、或いは、確かに国の動きは不透明だけれど、和歌山市では、こんな展望を持って財政を立て直す、という考え方を込めたもの、知識、判断を加えた情報として、公開して欲しいと思います。
次にIR活動についてです。
自治体が資金を調達する手段のひとつとして地方債があります。このうち、公募債を発行できるのは、16都道府県と13の政令市です。
静岡県では、昨年度からIR活動を始めています。理由は、28の自治体で同じだった発行価格や利回りなどの発行条件が、昨年4月、東京都とその他団体に区分され、両者の利回りに100円当たり15銭の差がついたことがきっかけとなっています。
この差は、100円を借りようとすると、静岡県は東京都よりも15銭高い金利を払わなければならないことを意味します。平成15年度で900億円の公募債発行を予定していた静岡県は、1億3,500万円多くの金利を負担することになります。
ただし現在は、自治体が発行する公募債の利回りは同じですが、投資家間で取引する際には市場原理が働いて、現に発行団体によって差が生じています。今年7月末に、神奈川県、埼玉県、大阪府で発行された額面100円の公募債は、1ヵ月後の流通価格に差がついています。神奈川県と埼玉県が99円54銭で取り引きされているのに対して、大阪府は99円35銭となっています。財政危機が続く大阪府の現状を市場が評価した結果です。債券市場は、自治体の人気に応じて銘柄格差をつけているのが現実です。
民間格付け機関が、比較的高い安全性を持っている地方債に対して、格差を付けている現実が、自治体にIR活動を始めさせた背景となっていのです。
和歌山市の発行している地方債は縁故債のため、今すぐ市場原理にさらされ、格付けされる恐れはないと思います。
しかし、縁故債の引き受けは指定金融機関ですが、金融機関は市場原理に基づいて行動しています。これまでの地方自治体と指定金融機関の関係からすると、当面、関係の変化は考えにくいのですが、昨年登場した住民参加型ミニ公募債により、縁故債も市場原理に向かわせる要素が出てきています。
投資家の中には、資金の使い道が明確な地方債を購入し、自分の住む地域に貢献したいという方もいると思います。しかし市民は、自治体財政について投資家という立場でウォッチするという新しい視点を持つことになります。
自分が住んでいる自治体だから、という見方ではなく、資産を投資した以上、回収できるかが関心事となります。税金を収めているのだから行政サービスを受けるという行動だけでなく、自治体のお金の使い道や財政問題についても、当然関心を持ち出します。市民が自治体の動きやその財政に関心を持つことは、投資家や市場からの評価を受けることになり好ましいことです。
さて、投資家の立場で自治体の姿勢を見ると、お金の投資先が、自ら「財政危機。」を連発するだけだったり、「このまま行くと財政債権団体に陥る。」など言っていては、決してその自治体に投資しません。
自治体は、地方債の発行者として償還の責任を持っています。ですから、将来にどんな展望を持っているのか、どのような財政運営をしているのか、債務は無理なく返済できる範囲にあるのかという要素が重要となります。
このような観点で自治体は説明責任を求められることになります。市民や議会への説明責任を果たすのは当然ですが、将来の投資家に対しての説明責任も重要な問題です。つまり、財政制度を説明するだけでは信認は得られないと言うことです。
市民の信頼を得るためには、情報公開が最も大切となります。
民間企業は既にIR活動として、年間二回の決算発表を改め、四半期毎に財政状況を公表している所が多くなっています。これは、市場から資金調達を行うため、投資家が求めている情報を開示することが、市場からの信頼を得ることに他ならないことが分かっているからです。逆に言えば、財務情報を開示しない企業は市場から見放されてしまいます。だからこそ、いまIR活動が重要なのです。
1998年、格付投資情報センター(R&I)は、地方自治体に対しての格付けを行いました。通常、企業からの依頼に基づいて格付けを行うのですが、自治体の格付けは依頼に基づかないで、公募地方債を発行する29団体について、3ランクの格付けを行っています。つまり市場は、公募地方債は、全て同じ信用力とは見なしていない証拠でもあります。
言うまでもないことですが、信用機関における格付けは、資本市場で企業が資金を調達する際の重要な投資判断要素となっています。市場参加者が共通認識できる投資情報として定着しています。
今回の自治体の格付けでは、東京都、静岡県、札幌市、仙台市などがAA+。神奈川県、長野県、横浜市などがAA。大阪府、兵庫県、京都市、大阪市などがAA‐となっています。自治体の信用力に格差が存在していると市場は評価しています。今後、下のランクに格付けされた自治体の資金調達に影響が現れると思われます。
このような動きは、和歌山市にとっても他人事ではありません。今の財政状況で信用機関に格付けされるとしたらどの程度になるのか予想もつきませんが、やがて到来する、地方自治体が格付けをされたり、選別される時代に備える必要があります。
地方債発行は、現在の総務大臣への認可から、平成18年度には事前協議制に移行します。やがて市場原理に基づいての取り引きとなる方向性にあると推測されます。
そこで市長にお伺いいたします。
IR活動の要諦は、財務諸表に表れた過去の実績を説明するのではなく、将来に向かっての経営戦略や事業計画を市民に訴えることや、行政課題は、むしろそれに対してどう立ち向かっていくかを具体的に説明することにあります。
そして、このような情報の開示は、市民に対してだけではなく、事前に職員さんにも説明を行い、課題への挑戦のための意思統一を図る必要が生じます。
IR活動とは、即ち、行政と市民との信頼関係を構築するための戦略です。継続的に行うことで、長期に亘ってこの信頼関係が築いて行けるものです。そして市民から評価を受けることは、行政の質を高めるバネにもなります。
長期的な視野に立ち、IR活動に力を入れるかどうかによって、行政評価に大きな差が生じてくることを認識して欲しいと思います。
情報の質の転換、つまりインテリジェンス(Intelligence)を加えることが、結果としてIR活動の本質に迫り、市民の信頼を得ること、和歌山市の格の向上につながると思います。例えば、市長の姿勢として、情報公開を重視するのであれば、情報公開コーナーが7階の配置で適切なのか、という視点も必要だと思います。考え方をお聞かせ下さい。