平成15年9月16日(火)
B.平成15年9月
 和歌山市議会一般再質問内容
(2)時代が求める行政の役割について

 元々、市民革命後の行政は、夜警国家、消極国家と言われたように、治安維持と外交、防衛などの役割を担うだけでした。市民のやることに、行政は口出しするなと言うことです。地域には、身の回りの公共的な役割は、自分達で行う仕組みが出来ていたのです。災害対策、教育、公共工事、まちづくり、高齢者の世話など、現代では、地方自治体が行っていることを地域が担っていたのです。規制のない活動は、経済的発展を促し、市民が主体のまちづくりを行えたのです。

 しかし、行き過ぎると必ず反動があります。産業革命以降、工場労働者の出現、都市化により、所得格差や地域の荒廃などを生み出しました。自由な活動は貧富の差を生じさせたのです。才覚ある者は良いのですが、そうでない人の生活は経済的に苦しくなりました。そこで、市民から行政に要請があったのです。それが福祉国家、積極国家が誕生した背景です。福祉国家は、公共分野の担い手が、民から公になったのです。

 市民から見ると、自分達で行ってきた公共的活動を、行政に対してアウトソーシングしたと言えるのです。
 アウトソーシングすると個性を無くすことを意味します。地域で公共的仕事をしている内は、自分達のお金で、自分たちで地域運営をしますから、個性的でお互いに納得する地域運営ができます。
 しかし、市民が税金を払って行政に仕事をアウトソースすると、つまり行政が公共的仕事を引き受けると、予算、人員の制約があり、地域毎の対応は不可能です。そこで、一律、均一的な取り扱いをせざるを得なくなります。ですから、行政の対応は画一的であると言う人がいますが、これは性質上、当然のことなのです。市全体を公平に扱うには、一般的・抽象的な取り決めをしておかないと運営は出来ないのです。
 行政は、地域で分散していたもの、教育、福祉などの取り組みについて、選択し集中させてきたのです。集中的に管理し、計画、実行するために、規制を作ることで、市民に対して平等を保障してきたのです。それが地域の発展に効率的なやり方だったのです。

 しかし、一世紀以上この仕組みを続けている内に、私達の価値観は変わりました。行政の組織や仕事が硬直化すると共に肥大化し非効率となったのです。
 そこで、行政に集中化させた仕事を、縮小したり、取りやめたりして、地域に分散させることが大切となります。
 言葉を変えると行政改革となりますが、このためには、地域のことは自分達ですると考える自立した市民と、権限を持ち利益調整を図ろうとする行政の手続き保障と行政権のチェックが必要です。
 手続き保障とは、告知と聴聞を指します。行政権が、市民に不利益を科す恐れのある政策を実施しようとする場合、あらかじめ内容を告知し、意見を聞く機会を設けることです。行政手続への信頼を得ることで、市民生活に保障を与えられます。
 ですから、市民に不利益を与える恐れがあるような政策を実行する場合、告知と聴聞の機会、市民の意見を取り入れるしくみが必要となります。一方、和歌山市全体にわたる政策、将来の指針は、プロ集団である行政が策定し、議会と議論する、議会がチェックできるシステムとし、市民に提示することが肝要です。

 今後、自分達のことを自分達でしようとする新しい市民が増えてくると、地域とくらしに目が向いていきます。益々、政治や行政のことは関心が無くなります。
 ですから、私は、行政に対する議会の役割は高まると思っています。チェック機能を果たすために、市民や議会への情報公開を更に進めること、市民の不利益を回避するための手続き保障、全体を鳥瞰した政策立案。これらが、これからの行政に求められる姿であり、市民と議会と行政の関係だと思います。

 先進国で採用されている代議員制度の間接民主主義は、時代の洗礼を受け、紆余曲折の末残っているもので、現代においても最も効果的なチェック機能を果たすしくみだと思います。

 なぜ、間接民主主義が優れているのかここで述べます。
 多くの市民が、政策決定の段階で加わると、時間を要し、結果的に十分な審議、議論が尽くされないまま意思決定される恐れがあります。それより、市民から選ばれた代議員が審議、討論したうえ、意思形成を図り行政運営したほうが、より実質的だと言えます。
 また、行政から市民に対して十分な情報公開がないと、世論操作により妥当な決定に至らない危険性もあります。これは歴史が証明しています。
 仮に、市民参加の御旗のもと、無条件に行政や議会が拘束されるという制度があると、かえって実質的な議論の機会が奪われます。
 市民が主役を本当に実現するために、行政のあり方について市長はしっかりとした考え方を持ち、流行に左右されないで本質的な行政運営をして欲しいと思います。



(3)情報公開とIR活動について

 まず情報の定義が必要ですが、認知された定義はありません。一般的には、情報とは、素材としてのデータ、データが加工されて何にかの状況で役立つようになったものを指します。情報を英単語に当てはめるとインフォメーション(Information)となります。
 情報は、現場の状況や、動いている変化している状態にあるもの、多くの人の意見などを取り込み、文字化などを施して加工します。つまり、生きているものを文字に変換したものに過ぎないのです。もっと言えば、過去の記録にすぎず、これからに余り役立たないものです。
 情報だけで判断することは危ない、現場を見ないと駄目だという根拠はここにあります。
 情報公開は必要ですが、単に数値の列記や経緯を示すだけでは、市民にとってそれ程価値はありません。
 では、情報公開は必要ないのか。いいえ、必要です。役立つ情報を公開する必要があります。市民が使えるような役立つ情報とは何でしょうか。これはインテリジェンス(Intelligence)です。
 これは、データを体系的に仕上げ、知識を付加したものです。これが役立つ情報です。FBIのIはインフォメーションではなくインテリジェンスの意味はここにあります。
 ですから、情報公開するのは過去の統計や数値、財務諸表だけではなく、その統計を和歌山市は、どう評価している、それを活かしてこんな町づくりを目指している、或いは、確かに国の動きは不透明だけれど、和歌山市では、こんな展望を持って財政を立て直す、という考え方を込めたもの、知識、判断を加えた情報として、公開して欲しいと思います。

 次にIR活動についてです。
 自治体が資金を調達する手段のひとつとして地方債があります。このうち、公募債を発行できるのは、16都道府県と13の政令市です。
 静岡県では、昨年度からIR活動を始めています。理由は、28の自治体で同じだった発行価格や利回りなどの発行条件が、昨年4月、東京都とその他団体に区分され、両者の利回りに100円当たり15銭の差がついたことがきっかけとなっています。
 この差は、100円を借りようとすると、静岡県は東京都よりも15銭高い金利を払わなければならないことを意味します。平成15年度で900億円の公募債発行を予定していた静岡県は、1億3,500万円多くの金利を負担することになります。
 ただし現在は、自治体が発行する公募債の利回りは同じですが、投資家間で取引する際には市場原理が働いて、現に発行団体によって差が生じています。今年7月末に、神奈川県、埼玉県、大阪府で発行された額面100円の公募債は、1ヵ月後の流通価格に差がついています。神奈川県と埼玉県が99円54銭で取り引きされているのに対して、大阪府は99円35銭となっています。財政危機が続く大阪府の現状を市場が評価した結果です。債券市場は、自治体の人気に応じて銘柄格差をつけているのが現実です。
 民間格付け機関が、比較的高い安全性を持っている地方債に対して、格差を付けている現実が、自治体にIR活動を始めさせた背景となっていのです。

 和歌山市の発行している地方債は縁故債のため、今すぐ市場原理にさらされ、格付けされる恐れはないと思います。
 しかし、縁故債の引き受けは指定金融機関ですが、金融機関は市場原理に基づいて行動しています。これまでの地方自治体と指定金融機関の関係からすると、当面、関係の変化は考えにくいのですが、昨年登場した住民参加型ミニ公募債により、縁故債も市場原理に向かわせる要素が出てきています。

 投資家の中には、資金の使い道が明確な地方債を購入し、自分の住む地域に貢献したいという方もいると思います。しかし市民は、自治体財政について投資家という立場でウォッチするという新しい視点を持つことになります。
 自分が住んでいる自治体だから、という見方ではなく、資産を投資した以上、回収できるかが関心事となります。税金を収めているのだから行政サービスを受けるという行動だけでなく、自治体のお金の使い道や財政問題についても、当然関心を持ち出します。市民が自治体の動きやその財政に関心を持つことは、投資家や市場からの評価を受けることになり好ましいことです。
 
 さて、投資家の立場で自治体の姿勢を見ると、お金の投資先が、自ら「財政危機。」を連発するだけだったり、「このまま行くと財政債権団体に陥る。」など言っていては、決してその自治体に投資しません。
 自治体は、地方債の発行者として償還の責任を持っています。ですから、将来にどんな展望を持っているのか、どのような財政運営をしているのか、債務は無理なく返済できる範囲にあるのかという要素が重要となります。
 このような観点で自治体は説明責任を求められることになります。市民や議会への説明責任を果たすのは当然ですが、将来の投資家に対しての説明責任も重要な問題です。つまり、財政制度を説明するだけでは信認は得られないと言うことです。

 市民の信頼を得るためには、情報公開が最も大切となります。
 民間企業は既にIR活動として、年間二回の決算発表を改め、四半期毎に財政状況を公表している所が多くなっています。これは、市場から資金調達を行うため、投資家が求めている情報を開示することが、市場からの信頼を得ることに他ならないことが分かっているからです。逆に言えば、財務情報を開示しない企業は市場から見放されてしまいます。だからこそ、いまIR活動が重要なのです。

 1998年、格付投資情報センター(R&I)は、地方自治体に対しての格付けを行いました。通常、企業からの依頼に基づいて格付けを行うのですが、自治体の格付けは依頼に基づかないで、公募地方債を発行する29団体について、3ランクの格付けを行っています。つまり市場は、公募地方債は、全て同じ信用力とは見なしていない証拠でもあります。
 言うまでもないことですが、信用機関における格付けは、資本市場で企業が資金を調達する際の重要な投資判断要素となっています。市場参加者が共通認識できる投資情報として定着しています。
 今回の自治体の格付けでは、東京都、静岡県、札幌市、仙台市などがAA+。神奈川県、長野県、横浜市などがAA。大阪府、兵庫県、京都市、大阪市などがAA‐となっています。自治体の信用力に格差が存在していると市場は評価しています。今後、下のランクに格付けされた自治体の資金調達に影響が現れると思われます。
 このような動きは、和歌山市にとっても他人事ではありません。今の財政状況で信用機関に格付けされるとしたらどの程度になるのか予想もつきませんが、やがて到来する、地方自治体が格付けをされたり、選別される時代に備える必要があります。
 地方債発行は、現在の総務大臣への認可から、平成18年度には事前協議制に移行します。やがて市場原理に基づいての取り引きとなる方向性にあると推測されます。

 そこで市長にお伺いいたします。
 IR活動の要諦は、財務諸表に表れた過去の実績を説明するのではなく、将来に向かっての経営戦略や事業計画を市民に訴えることや、行政課題は、むしろそれに対してどう立ち向かっていくかを具体的に説明することにあります。
 そして、このような情報の開示は、市民に対してだけではなく、事前に職員さんにも説明を行い、課題への挑戦のための意思統一を図る必要が生じます。
 IR活動とは、即ち、行政と市民との信頼関係を構築するための戦略です。継続的に行うことで、長期に亘ってこの信頼関係が築いて行けるものです。そして市民から評価を受けることは、行政の質を高めるバネにもなります。
 長期的な視野に立ち、IR活動に力を入れるかどうかによって、行政評価に大きな差が生じてくることを認識して欲しいと思います。
 
 情報の質の転換、つまりインテリジェンス(Intelligence)を加えることが、結果としてIR活動の本質に迫り、市民の信頼を得ること、和歌山市の格の向上につながると思います。例えば、市長の姿勢として、情報公開を重視するのであれば、情報公開コーナーが7階の配置で適切なのか、という視点も必要だと思います。考え方をお聞かせ下さい。



(4)東南海・南海地震について

 津波地震の経験のない市民が多くなっています。市民への情報提供は、きめ細かく実施して欲しいと思います。
 一例として、大きな揺れを感じたら家の2階にいること。
 震度6までなら外へ出ないこと。自分の意思で動けるならば外へ出ないほうが安全だからです。
 時間的余裕があれば、避難所へ行くこと。
 食べ物の備蓄をしておくこと。
 1部屋だけ耐震性のある部屋を用意しておくこと。何も家全体を耐震診断しなくても良いのです。1つの部屋は、耐震補強しておく、高いところにものを置いておかないことなど。
 これらを知っておくだけで、いざと言う時かなり行動は違うはずです。

 もうひとつ、東南海・南海地震の特徴があります。過去のこの地震は12月と2月に多く発生しています。科学的には解析されていませんが、冬に発生するのが特徴です。
 つまり、暖房器具を使用しているため、津波が発生しながらも、火災が発生すると予想されます。木材は表面が湿っていても、中身は乾いていますから火は起こります。

 補助金についてです。
 静岡県では、民家の耐震補強費用として一軒当たり30万円の補強費補助制度があります。鳥取県では、民家が地震による被害を被った場合、一軒当たり300万円の補助金を支出することにしているなど、大地震に対して意識が高い自治体があります。大地震が予想されている地域、地震の被害があった地域は、事前、事後の経済的なケアが整備されています。
 補助金に関する前向きな答弁をいただきましたが、市民生活において、ハード面、精神面での安全、安心のため、和歌山市にも、是非、補助金制度を創設して欲しいと思います。

 最後に、防災に対する行政の役割についてです。
 今までの防災計画では対処しきれないと思うことから対策を練り上げるべきです。
 まず実施不可能と思われることを列挙します。
・職員の対策本部等への集合数は訓練の半分程度になります。
・十分な仕事量をさばけません。
・市民への広報はできません。
・マスコミも現場に入れないため、現地の正確な情報は入りません。
・水浸しで、しかも木材などが浮遊しているため、ボートも危険で救助活動が停滞します。
・被害は広範囲のため、他府県からの応援は期待出来ません。
・電源確保が出来なければ、パソコンも使えないため情報処理が遅れます。
・正確な被害状況が非常対策本部に入りません。
・携帯電話は使えません。
・電話回線が絞られます。ざっとこのような状態になります。

 これらの状況は市長も想定していると思います。その上で、非常時に大切なものは何だと思われますか、市長の思いをお聞かせください。


 以上

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平成15年9月 和歌山市議会一般質問について


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