コラム
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2021/11/16
1862    掃除のおばちゃん

嬉しい便りが届きました。令和3年10月に退職した会社で清掃の仕事をしている方が、事務員さんに声をかけてくれたのです。

「昨日『片桐さんは最近いらっしゃいますか?』と声をかけてくれました。私は『片桐さんは退職されましたよ』とお伝えしました。そうしたところ『あれぇ。私らにも声をかけてくれてねぇ、とても優しい方で。最近いないから、みんなでどうされたんかなぁって話していたんですよー。片桐さんが退職したことを、私から同僚の方々に伝えておきます。ほんまに寂しいですねー』と話していましたよ」と、ご丁寧に事務員さんが伝えてくれたのです。

そして事務員さんは「本当に寂しいですねと一緒に話しました」と嬉しい言葉を添えてくれました。

日常の中で消え去るような小さな話ですが、僕にとってはとても大きくて嬉しい話なので看過できない日常です。

会社に出勤すると清掃の皆さんは毎日、早朝から事務所内の清掃をしてくれています。執務室、廊下、トイレ、そして大きなゴミ箱の掃除など、大変なところを担ってくれているのです。本来であれば自分たちの職場の清掃は自分たちで行うべきですが、始業時間から直ちに仕事に入れるように、早朝の時間に清掃をしてくれているのです。

確か皆さんの勤務時間は午前6時からで、それまでは執務室に入ることができません。ある寒い日の朝、早朝の仕事があり午前5時45分頃に会社に着きました。玄関で清掃の皆さんが寒い中、待っているのです。僕は「おはようございます。今朝も寒いですね。ここにいると冷えるので一緒に入りましょう」と挨拶をしました。扉を開けて「さあ、入りましょう」とお誘いしたところ「私らはここで待ちますから大丈夫です」と言うのです。年配の方をほっておくことはできないので「寒いからさあ、事務所に入りましょう」と再度、お誘いしたところ「出勤時間は朝の6時からなのです。私達は社員ではないので出勤時間前に執務室に入ることはできないのです。慣れているし大丈夫ですから、片桐さん仕事に行ってください。時間まで待ちますから」と答えたのです。

思いました。自分の母親の年齢に近いような皆さんが寒い中、会社の正門の外で待機しているのです。だったら午前6時手前に出社すれば良いと思い「では今日、お先に入りますが、明日からは6時に出社しましょうよ」と話しかけると「いえ、皆さんの仕事が始まる前に清掃を済ませたいので、6時ちょうどから掃除を始めたいのです。だから5時30分過ぎに着くようにしています。慣れていますから」と答えてくれたのです。

寒い中、60歳から70歳代の女性の方々が玄関の外で待機している姿を見て「寒い中、本当にご苦労さま。自分だけが入って申し訳ないです」と伝えると「氣にしないでください」と話してくれました。

僕は知っています。夏の暑い日も、太陽の日差しが強い日も、冬の寒さが厳しい時も、雨が降っている時も、どんな時でも私達が仕事に就く前に清掃を行い、何事もなかったように終えてくれているのです。夏には雑草を抜いて、花壇に花を植えてくれて、トイレの手洗い場所に一輪の花を添えてくれて。こんな素敵な行為に心を動かされない人はいないと思います。いつも頑張る皆さんに、僕は感謝の気持ちで接していました。

朝の「おはようございます」の挨拶、廊下で出会った時の「ご苦労さまです」の一言。暑い日は「今日、暑いから無理をしないでくださいね」。寒い日は「水を使うと手が冷たいでしょう。温めてくださいね」。それに「元気でいてくださいね」など声をかけていました。

決して高くない賃金で私達を支えてくれている皆さんです。感謝の気持ちで接することが礼儀であり、挨拶はみんなの見えないところで働いてくれていることへの尊敬の気持ちです。

そんな皆さんが僕の存在を氣にしてくれていたことを知り、感動で溢れています。「もう一度会いたいなぁ」と思う晩秋のある日です。